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出版状況クロニクル 23 (2010年2月26日〜2010年3月25日)

小田光雄

本クロニクル21で、新潟の老舗書店北光社の閉店を記しておいたが、『朝日新聞』(3月1日)の「朝日歌壇」に山田昭義という人の次のような一首が掲載された。
   北光社書店の今日を限りの閉店を惜しみて客はレジに列なす
 そして選者の佐佐木幸綱が「創業百九十年の新潟の書店・北光社は一月三十一日、多くの人に惜しまれつつ閉店した」という「評」を付していた。
 それぞれの地方の老舗書店は、かならず近代文化史の一齣を形成する独自のトポスであったにちがいない。だからこそ閉店に際して、このようなレクイエムとしての短歌が詠まれるのだろう。
 商店街が元気だった1960年代に、私も学校の帰りがけにいつも立ち寄っていた書店があった。その書店が閉店したのは90年代末で、おそらく多重な負債のためと思われるが、ずっとシャッターを下ろしたまま10年以上が過ぎていた。それが最近になって解体され、更地になった。負債の処置が解決したのだろうか。聞けば駐車場になるという。
 その更地になった土地は奥に細長く、現在の書店に比べればはるかに小さかったことが実感される。だがその小さな書店にこそ、今とは異なる様々な読者の物語がつまっていたにちがいない。自分の体験からして、本当にそう思う。

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1.   1980年代以降の出版物売上を支えてきたのはコンビニであり、雑誌とコミックの成長だったと繰り返し述べてきた。しかし雑誌のみならず、コミック市場も09年は過去最大の落ちこみを示し、販売金額は4187億円と前年比6.6%減、コミックスは4年連続マイナス、コミック誌販売金額は2000億円を割った。出版科学研究所による販売金額と新刊点数の推移を示す。


コミックス・コミック誌推定販売金額 (単位:億円)
コミックス コミック誌 コミックス・コミック誌合計
推定販売金額 前年比 販売推定金額 前年比 販売推定金額 前年比
1995 2,507 99.5 3,357 101 5,864 100.3
1996 2,535 101.1 3,312 98.7 5,847 99.7
1997 2,421 95.5 3,279 99 5,700 97.5
1998 2,473 102.1 3,207 97.8 5,680 99.6
1999 2,302 93.1 3,041 94.8 5,343 94.1
2000 2,372 103 2,861 94.1 5,233 97.9
2001 2,480 104.6 2,837 99.2 5,317 101.6
2002 2,482 100.1 2,748 96.9 5,230 98.4
2003 2,549 102.7 2,611 95 5,160 98.7
2004 2,498 98 2,549 97.6 5,047 97.8
2005 2,602 104.2 2,421 95 5,023 99.5
2006 2,533 97.3 2,277 94.1 4,810 95.8
2007 2,495 98.5 2,204 96.8 4,699 97.7
2008 2,372 95.1 2,111 95.8 4,483 95.4
2009 2,274 95.9 1,913 90.6 4,187 93.4

コミックス新刊点数
雑誌扱い 書籍扱い 合計 前年比
1995 4,627 2,094 6,721 116
1996 4,791 2,255 7,046 104.8
1997 5,015 1,904 6,919 98.2
1998 5,407 2,189 7,596 109.8
1999 5,732 2,192 7,924 104.3
2000 5,798 2,027 7,825 98.8
2001 6,648 2,322 8,970 114.6
2002 7,436 2,393 9,829 109.6
2003 7,852 2,162 10,014 101.9
2004 8,075 2,356 10,431 104.2
2005 8,298 2,440 10,738 102.9
2006 8,317 2,648 10,965 102.1
2007 8,486 2,882 11,368 103.7
2008 8,943 3,105 12,048 106
2009 8,899 3,028 11,927 99

[ コミックスは4年連続マイナスといっても、ブックオフなどのリサイクル市場、近年のレンタル市場の成長にもかかわらず、大きな落ちこみとなっていない。問題なのはコミック誌のほうで、95年に比べれば、1444億円の落ちこみで、10年には95年の半分になってしまうかもしれない。雑誌の凋落がコミック誌にも及んでいることが明らかだ。
 ただコミックスも新刊点数から見れば、95年に対して倍近い点数になっているわけだから、『ワンピース』初版300万部という出版史上最高の刊行があるにしても、ベストセラー、ロングセラーの減少を告げている。そしてコミック誌の連載で読み、新刊が出ると同時にベストセラーとなるパターンも減り、コミック誌と新刊コミックの連動もゆるくなりつつあるのだろう。また書店においてもコミックはシュリンクで包装されているので、メディアミックス化されてから買うというパターンも増えていると思われる。
 このようなコミック市場に対して、デジタル元年におけるコミックの電子書籍の動向はどのような影響をもたらしていくのか、それは10年以後の数字に反映されるにちがいない  ]

2.   雑誌の凋落に関連することだが、電通による09年「日本の広告費」が発表された。昨年の日本の総広告費は5兆9222億円で、前年比11.5%減である。マス4媒体、インターネット広告費の推移を示す。


マス4媒体・インターネット広告費の推移 (単位:億円)
新聞 雑誌 ラジオ テレビ インターネット
2000 12,474 4,369 2,071 20,793 590
2001 12,027 4,180 1,998 20,681 735
2002 10,707 4,051 1,837 19,351 845
2003 10,500 4,035 1,807 19,480 1,183
2004 10,559 3,970 1,795 20,436 1,814
2005 10,377 4,842 1,778 20,411 3,777
2006 9,986 4,777 1,744 20,161 4,826
2007 9,462 4,585 1,671 19,981 6,003
2008 8,276 4,078 1,549 19,092 6,983
2009 6,739 3,034 1,370 17,139 7,069

[ マス4媒体広告費は2兆8282億円で、前年比14.3%減となり、新聞は10年で半減し、ついにネット広告費に抜かれてしまった。
 雑誌も前年比25.6%減、1000億円を超える大幅な落ちこみを示し、もし今年も同様であるならば、雑誌の凋落はさらに深刻なものとなるだろう ]

3.   雑誌広告費の減少を受け、日経BP社も赤字決算、売上高は5年連続減少の428億円で、前年比18.9%減、営業損失は10億5300万円。

[ 日経BP社は多くの直販雑誌などを有し、日経新聞関連の儲かる雑誌出版社のモデルとされていたが、確実に雑誌広告費の減少の直撃を受けている。
 同社の『日経エンタテインメント!』はこの4月号が「創刊13周年記念特大号」となっている。広告収入をメインとするこの『日経エンタテインメント!』とリクルートが創刊した『ダ・ヴィンチ』は郊外型書店や複合型書店の情報誌的位置にあったと思われるが、これらの雑誌の行方もどうなるのだろうか ]

4.   『出版ニュース』(2/下)に09年の創刊誌と休・廃刊誌一覧が掲載されている。それによれば、創刊は146誌で、前年より41誌減り、休・廃刊は230誌で前年より35誌増えている。


[ この休・廃刊誌のリストを見ると、09年が『月刊プレイボーイ』『現代』『諸君!』などの大手出版社の月刊誌が立て続けに終わってしまった年だとあらためて実感される。
 それに加えて、そのリストは出版社名も付されているので、雑誌のみならず、実に多くの出版社が雑誌を休・廃刊せざるをえなくなった年だとも認識させられる。
 またひとつの雑誌の休・廃刊は中小出版社規模の消滅に匹敵し、それらに関わる多くの人々の職場や寄稿の場が失われたことになる。
 おそらく今年はさらに多くの雑誌の休・廃刊に見舞われるだろう。だがそれが雑誌凋落の現実なのだ ]

5.   マスコミや出版業界の特集をアイテムとする『創』の危機も本クロニクル12で既述したが、こちらも休刊か存続かの瀬戸際にあるようで、4、5月合併号に篠田博之編集長による「『創』を読んで頂いている読者の皆さまへ」という2ページにわたる声明が掲載されている。
 篠田は合併号の理由を「一度立ち止まって考えてみようと思ったから」で、本誌の赤字に加えて、利益を上げていた『マスコミ就職読本』もネットのために悪化し、リーマンショックによる広告の落ちこみも重なり、資金繰りが逼迫する状態にあると書き、さらに続けている。それらの文章はオーナー編集長の言葉としてあまりにも生々しい。抽出して引用する。

「 もともと私はもう10年近く前から、創出版から報酬を得ていない。長年協力関係にある筆者に十分なお礼もできないのに、自分がそこから報酬を得るわけにはいかないという、これは経営者としてのモラルだと考えてきた。幸い、東京新聞の連載を始め、自分の会社以外でも仕事をして収入を得ており、生活費にはそれをあててきたのだが、最近はそこからも創出版に補填せねばならなくなった。この30年間で、私は会社に数千万のお金をつぎこんだと思うのだが、この1年ほどは年に1000万円余をつぎこんだ。 」

「 そうまでして続けてきた雑誌だが、最近いろいろ思うところが多いのは、ひとつには私自身がもう50代半ばを超え、体力的に無理ができなくなったこと、そしてもうひとつは底なしの出版不況で、先の展望が見通せなくなってきたからだ。つきあいのあった雑誌が次々とつぶれ、書店に総合誌のコーナー自体がなくなっていくのも大きな変化だった。 」

「 そして、これからどうするか。いろいろな選択肢を考えようと思っている。例えば刊行形態を隔月にするという案だ。『諸君』などこの間、休刊した雑誌も一応、こういう方法を考えたらしい。あるいは『マス読』に替わる利益の道を考え、本誌をこのまま続けるという方法。そしてもちろん休刊という道もある。 」

[ 篠田はこれからどうするか、多くの人の意見を聞いて考えると結んでいる。もちろん存続するにこしたことはないが、それは資金的にも難しいし、多くの出版社の例にあるように、経営者を自己破産の道へと進めてしまうだろう。篠田とは面識はないにしても、賢明な選択をと願わずにはいられない ]

6.   これも本クロニクル21で、『DAYS JAPAN』が危機に陥り、存続キャンペーンを展開していることを書いたが、こちらは何とか存続にこぎつけたようだ。「6周年記念号」の4月号「編集後記」に編集長の広河隆一が次のように書いている。

「 今回の存続キャンペーンには、多くの人が応じてくださった。このままのDAYSでいいと思っていなくても、人々は背中を押してくださった。しかし1年後に、再び「存続キャンペーン」を呼びかけることはできない。 」

[ キャンペーンによって、新たな定期購読者は千人以上増えたが、そのために書店での店売分が減っているようで、綱渡りの毎月が一年続くことを言外にこめているのだろう。広河は「この雑誌の編集に入って6年という年月は、確実に私の精神と身体を疲労させている」とも書いている。まさに広河や篠田だけでなく、このような状況下で出版に携わることは本当に精神にも身体にも悪いのである。ささやかな支援ながら、私も毎月買い続けることにしよう。
 また一方で、これまでそのような境遇を経験していなかった大手出版社まで同じ状況に追いやられ始めているのだ  ]

7.  都市出版の外交専門誌『外交フォーラム』が休刊。1988年創刊で、発行部数3万部のうちの9千部を外務省が買い取っていたが、昨年の事業仕分けによって買い取りが廃止されたことによる。

[ これは全貌が定かではないが、公官庁や地方自治体などを買い上げ先とするか、もしくは助成金による定期刊行物があって、利権がらみのおいしい出版とみなされてきた。同じく都市出版の『東京人』も東京都の助成金を受けていたはずである。しかしこのような分野にも出版危機は迫ってきているのだろう ]

8.   『新文化』(3月4日)で、くまざわ書店の熊沢健会長がインタビューに答えている。くまざわ書店の昨年度の売上高は424億円で、196店舗を有する。彼の発言を要約してみる。

*既存店の売上の減少もあり、どの立地にしても今後書店売上がよくなるとは思えないし、好条件の出店物件も少なくなっている。
*プラスゲオといった複合店は一切やるつもりはない。
*開店時商品はすべて3〜5ヵ月延勘のために、閉店時には返品すれば、キャッシュに換えられる。
*もう成長させようとは思わない。少しずつ縮小していく。既存店売上はマイナス5%で、これは年間10店閉めているのと同じだ。3年連続して5%落ちたら、85%になってしまい、黒字だった店舗の大半が赤字となる。そのような時代だという認識を持たなければならない。
*店長の7割が女性である。
*責任販売に関しては現在の書店とマージンでは無理で、人材もいないし、コストもかけられない。不特定多数の客層を相手にする店売では、最終販売冊数を予測できない。

[ 熊沢健は1960年代からのくまざわ書店の出店戦略を担い、現在まで成長させてきた人物ゆえに、書店からの発言として、最もシンプルで透徹したものだと判断できる。しかも01年売上高322億円、128店舗からさらに成長させてきた経営者の発言だからでもある。
 出店が飽和状態に達したこと、雑誌の凋落、アマゾンなどのネット通販の成長、ブックオフの再編などを冷静に観察し、書店事業の縮小を必然的に受け止めているのだろう。
 それがくまざわ書店に可能なのは長期に及ぶ開店口座がないためで、開店時商品を3〜5ヵ月延勘で処理している書店は他にないように思われる。だから堂々と縮小未来図も語れるのである。しかもレンタル事業にもほとんど手を染めていなかったことも、再販委託制下の書店における在庫メカニズムを熟知していることによっているのだろう。責任販売についての発言も、かつては外商活動に従事していた経験も反映されていて、ナショナルチェーンへと移行した時に起きる書店の変貌もはっきり認識しているのだとわかる。
 これまで様々な出版社、取次、書店の発言を紹介してきたが、その中でも最もリアルで群を抜いた発言と分析で、やはりできる人、見ている人はいるものだという感慨を抱かされる  ]

9.   これも『新文化』(3月18日)だが、同様に三洋堂書店の加藤和裕社長にインタビューしている。本クロニクル21でもそのトーハンなどの増資にふれている。こちらも要約してみる。

*1月に実施した第三者割当増資による8億円は、10年度の開店・改装投資に当てられている。ただこれでトーハンの持株比率は19%に達し、これが20%を超えた場合、トーハンの連結対象の持分法適用会社となるので、これ以上はトーハンに増資を仰がない。
*新たな調達先は大手流通業想定の可能性はあるが、CHIグループは考えていない。
*かつての郊外型、複合型ビジネスモデルの出店と採算は難しくなる一方である。
*とりわけレンタル事業の失墜が大きい。ゲオが仕掛けた100円レンタルで、それまでの280円から300円が一気に3分の1まで下落してしまい、儲からない事業になりつつある。
*これからは本が中心の「スペシャリティ・ストア」でありながらも、ヴィレッジ・ヴァンガードのような「クロス・セリング」の面も導入し、CD・DVDレンタルに依存しない複合書店をめざす。
*中古本販売など複合商材のノウハウをパッケージで提供する子会社メディアサイトコーポレーションを設立し、大型複合店で軌道に乗り始めた「ふるほんタウン」や文具・雑貨・玩具・駄菓子などの「キッズタウン」をパッケージしたフランチャイズを展開する。

[ くまざわ書店の熊沢健と同様に、三洋堂書店の加藤和裕も80年代以後に成長した郊外型、複合型ビジネスモデルのパラダイムチェンジを語っている。まして三洋堂は75年に最初の郊外型書店を出店し、そのチェーン展開によって株式上場に至っているだけに、余計にリアルに響く。
 ただくまざわ書店と異なり、三洋堂書店は上場しているので、アナウンスメント効果も意識しての発言だと思われるが、複合商材のパッケージ子会社によるフランチャイズ展開は先行各社もあり、難しいのではないだろうか。また大手流通業とはトーハンとの関係から類推すれば、セブン&アイ・ホールディングスを想定していると考えられる。
 いずれにしてもナショナルチェーン化した書店も縮小か、新たな複合を含んだ再編の方向に進んでいくしかない状況にあることを、ふたつのインタビューは示唆している ]

10.  未来屋書店は売上高409億円で、前年比12.1%増。今期は180坪規模11店を新規出店し、営業利益10億円と過去最高で、純利益も5億円と大幅増益。

[ これは未来屋書店が現在のところ、数少ない書店の勝ち組であることを示している。未来屋書店はイオングループに属しているので、出店もその大型郊外ショッピングセンター内に比重が高く、立地条件に恵まれていること、そして売場規模、レイアウト、フェアなどの店舗の標準化と品質管理オペレーションが功を奏していることを告げている。だがそれは立地とインショップを背景とする未来屋書店ならではの店舗運営であって、他の書店が取り入れることはできないだろう ]

11.  有隣堂は藤沢店で、古本の買取・販売、新古本、中古CD・DVDの買取、バーゲンブック常設売場を複合させたリユースブックショップ「ReBOOKS」を4月に開店。地元の古本屋12店とタイアップし、初年度売上6000万円を想定。

[ 三洋堂書店もそうであるように、ナショナルチェーンを始めとする書店の大半が古本販売に参入している。レンタル事業の失墜もあり、さらに多くの書店が古本の併売を始めていくと思われる。この拡大する古本市場と時限再販本市場がうまく交差すれば、新しい道筋と展開が見えてくる可能性もあるかもしれない ]

12.   『出版状況クロニクル』において、ずっと言及してきたすみやが1月末で上場を廃止し、CCCに全事業を譲渡し、解散、もしくは清算予定。すみやは06年にCCCの子会社となり、複合店TSUTAYAすみやを展開していたが、CD・DVD市場の不況を受け、CCCに16店舗などが引き継がれることになった。譲渡金額は買付金等との相殺で、24億円。

[ すみやは創業112年の老舗で、レコード、楽器販売、音楽教室を手がけ、複合型書店としては最盛期の97年には112店を展開していた。
 レンタル事業もCCCと同様に80年代から始めていたのだが、老舗が新興に呑みこまれることになったことは栄枯盛衰を物語ってあまりある。正社員150人、パート・アルバイト400人のうち、再雇用の正社員は30人と伝えられているので、多くの人が職を失うことになる。
 これは現在の出版業界の至るところで起きている、またこれから起きるに違いない現実であろう ]

13.   富山の明文堂書店は、トーハンとCCCを割当先とする第三者割当増資を実施し、7億円を調達。新規出店や増床に向ける。2社の持株比率は45%。

[ トーハンとCCCの協調増資は初めてのことではないだろうか。これは明文堂書店の取次がトーハンであるにもかかわらず、18店のうちの15店がTSUTAYAのFCで、CCCにとっては北陸有数のフランチャイジーとなっているからだ。  だから日販が取次でないにもかかわらず、明文堂書店のようにTSUTAYAのFCになっている他帳合の書店もかなりあると思われる。それゆえに明文堂書店のような入り組んだ株式再編も、これから必然的に起きてくるだろう ]

14.  ゲオの新社長の森原哲也が『日経MJ』(3月15日)で、10年度の新戦略を語っている。本クロニクル22でふれたように、ゲオは三菱商事系の共通ポイントサービス「Ponta 」に加盟している。
 森原の語るところによれば、昨年7月から実施している100円レンタルの見直し、千店達成に向けての出店、千台規模をめざすDVD自動レンタル機の展開、セカンドストリート子会社化によるゲオ店内での古着販売などが今期の戦略として挙がっている。

[ 森原の言葉で最も印象深いのは、日本の場合DVDレンタルは95%が店舗だが、アメリカでは宅配が3〜4割、自動レンタルが2割、残りが店舗で、まったく同じでないにしても日本もアメリカと同様になるとされるので、様々な販売手段に対応できるように準備を進めているという部分だった。
 さらにアメリカではそれらに続いて、映画配信市場も立ち上がり始めたようで、こちらも近年日本に導入されてくるだろう。
 連休にゲオに行くと、何と80円レンタルをやっていて、客が列をなしていた。隣のブックオフでは千円以上の買い上げに対して、3割引きセールが行なわれていた。いずれも客で混み合っていた。その後新刊書店にも寄ってみたが、こちらは連休と思えぬほど閑散としていた。これが連休の全国共通のゲオ、ブックオフ、新刊書店の対照的な現実だったのではないだろうか  ]

15.   タワーレコード発行株式の21.6%をセブン&ワイ・ホールディングスが取得し、NTTドコモに次ぐ第2位の株主となる。
 タワーレコードもアマゾンとの競合もあり、セブン&アイのネット通販「セブンネットショッピング」の物流、ロジスティクスへの相乗り、ショッピングセンター内への出店、コンビニとの提携も視野に収めてのことだろう。

[ セブン&アイはぴあとも資本提携している。以前に再編の流れをセブン&アイ、セブン・イレブン、トーハン系列に見立てたことがあったが、9の三洋堂書店のところでも例に挙げているように、このライン上での再編が進んでいくことも考えられる ]

16.   アスキー・メディアワークスがケータイ小説サイトを運営する魔法のiらんどを子会社化。魔法のiらんどはケータイ小説『恋空』などのヒットを受け、ユニークユーザー160万人とされている。

[ ケータイ小説も角川GDH入りしたことになる。角川歴彦は『クラウド時代と〈クール革命〉』の中で、来たるべきクラウド時代の国内コンテンツ市場を14兆円と見なし、そのうち出版6兆円、映像4.8兆円としているので、ケータイ小説は出版と映像にまたがるコンテンツと分類され、今回の子会社化に至ったのであろう。再編に絡んだコンテンツ争奪戦もすでに始まっているのだ ]

17.  河出書房新社の『文芸』、作品社の『作品』、福武書店の『海燕』の編集長を務めた寺田博が亡くなった。

[ 3誌の編集長を経験してきたことからわかるように、寺田は戦後文学の最も正統的な文芸誌編集長だった。残念なことに寺田は『時代を創った編集者101』(新書館)を編んだだけで、もし書かれれば、実に興味深い戦後出版史になったと思われる、自らの編集史を残すことなく、鬼籍に入ってしまった。はばかる多くの事情があったことは承知していても、本当に残念である。
 そして寺田の死は彼が手がけた『作品』や『海燕』のようにまだ消えていないが、大手出版社の文芸誌の行く末を暗示しているように思えてならない ]

18.   3PLのことを半年ほど前から書こうと思っていたのだが、まだ専門誌でしか取り上げられていなかったので、見送っていた。ところがようやく『日経MJ』(3月3日)が「伸びる物流3PLで勝つ」という一面特集を組むに至った。これは広くアクセスできる記事でもあり、紹介しておこう。
 3PLはサードパーティ・ロジスティクスの略である。旧来型の物流業が運送や保管を主体としていたのに対して、単に荷物を集荷して配達するだけでなく、受発注業務や商品の値札付け、検品も行ない、物流関連コストの削減やサービス向上をめざし、包括的な物流業務を受託することをさす。
 また3PLは専門誌の記述によれば、メーカー型から、流通・小売り型への転換、一戸建倉庫からマンション型倉庫への移行とも説明されている。
 アメリカではメーカーや小売りのファーストパーティ、物流業者のセカンドパーティと異なる第3者によって担われているが、日本では倉庫業や運送業によって手がけられている。

[ 察しのよい読者はすでにおわかりと思うが、アマゾンなどのネット販売はこの3PLに移行し、それにIT技術とカード決済がセットで組みこまることで、急成長をとげたのだろう。  それに対して取次のロジスティクスは旧来型を脱皮できず、以前になされた巨大な投資もうまく時代に対応していないのではないだろうか。日本の出版業界の凋落とアマゾンの急成長の背後にあるのは、このようなロジスティクスの現在的優劣からも生じているのではないだろうか ]

19.   専門図書館』第240号が「個性派、主題専門書店に学ぶ」という特集を組んでいる。そこでふたば書房、ガケ書房、子供の本とおもちゃの百町森、医学書の志学書店、デザイン書専門古書店パージナ、農文協・農業書センター、丸善の松丸本舗、大学カフェのくすみ書房が、それぞれの経営者や担当者たちによって語られ、自らが撮ったと思われる店内や棚の多くの写真が示され、その独自の営業形態が映し出され、オリジナルな特集となっている。

[ これは私も「大きな図書館から小さな図書館へ」という毛沢東の小さな図書館をめぐる一文を寄せているから言うわけではないが、図書館の側から編まれた書店の組み合わせは、従来の出版業界の視点とは異なるだけに、思いがけず新鮮な特集に仕上がっている。  出版業界の人たちもぜひ目を通してほしい。『専門図書館』は市販しておらず、販売を目的としない限られた部数の文字通り専門誌だが、公共図書館に頼んで閲覧することが最も近道だと思う。発行所の専門図書館協議会のアドレスhttp://www.jsla.or.jp/index.htmlと電話番号03−3537−8335を記しておく ]

20.   光文社が早期退職者50人を募集。全社員は308人というから、6分の1のリストラとなる。91年には売上高が400億円を超えていたが、昨年は200億円台に落ち、営業赤字となっていた。

[ 光文社に関しては様々な噂が飛びかっていたが、ついに人員リストラになった。次には雑誌の休刊、書籍のシリーズの刊行中止も起きてくるだろう ]

21. 最後にそれでも少しだけ明るい話題を見つけたので、それを紹介しておこう。これは『出版ニュース』(2/下)の「海外出版レポート/イギリス」で、笹本史子がレポートしているものである。  本クロニクル21で書いておいたように、イギリスでも年末にボーダーズが倒産し、暗い話題が多く、大手出版社も苦戦を強いられていたようだ。だがその中でも、気を吐いたのがインディペンデント・アライアンスという独立系出版社のグループに属する中堅各社であるという。  それらはフェイバー&フェイバー、アトランティック・ブックス、クエルカスといった出版社で、『グローバリズム出ずるところの殺人者』や「ミレニアム」シリーズを刊行し、「各社健闘し、このご時世にグループ全体で前年比20.9%も売上が上昇した。セレブ本のような派手な売れ方でなくとも、良い本を確実に送り出して成功しているこれらの出版社は、先行き不透明な中で希望を見出すことのできる存在といえよう」と笹本はレポートしている。  

[ フェイバー&フェイバーは知っているが、アトランティック・ブックスもクエルカスも知らない。それにインディペンデント・アライアンスという独立系出版社グループの存在も初めて知った。どなたかイギリス出版界に詳しい人の話を聞いてみたい ]

22. 単行本『出版状況クロニクルU』は「09年出版状況をめぐって」150枚を書き下ろし、4月末刊行予定。

23. 私のブログ【出版・読書メモランダム】は3月15日更新の[旧刊メモ]から3回にわたって、1950年代末のカッパノベルスから80年代の講談社ノベルスや角川ノベルスの創刊を「プログラムノベルス」の時代として書いている。こちらも参照されたい。

なお論創社HPでの本連載は今回で休載とする。
次回からは私のブログ【出版・読書メモランダム】に引き継がれる。
よろしければ、またお出かけあれ。

小田光雄の著書

出版業界の危機と社会構造
出版業界の危機と社会構造
出版社と書店はいかにして消えてゆくか
出版社と書店は
いかにして消えていくか
ブックオフと出版業界
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古本探究
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出版状況クロニクル
出版状況クロニクル
古雑誌探究
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古本探求II
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古本探求III
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