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出版状況クロニクル 11 (2009年2月26日〜3月25日)

小田光雄


出版業界において、急速に再編が進んでいる。それはとりわけ資金繰りに苦しい書店の分野に顕著であり、水面下で行なわれている交渉はまだいくつもあると思われる。
しかしこのような状態もきわめて跛行的なものだと言わざるを得ない。再販委託制下にある近代出版流通システムの改革なくして、再編や合併を進めたとしても、肝心な問題の解決に至らないことは自明だからだ。
だがそれでも横並びが好きな出版業界のことゆえ、これからも再編や合併、及び雑誌の休刊は続くであろう。

 

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1.  コンビニ市場の07年雑誌売上が4000億円であることは本クロニクル10で記したが、こちらも再編が進み、ローソンがam/pmを買収。両社合算店舗数は全国で1万店を超え、東京都内では1459店となり、首位のセブン-イレブン1119店を抜く。この際だから、あまり語られることのないコンビニの取次を調べてみた。

チェーン名 取次 企業母体
セブン-イレブン トーハン イトーヨーカドー
ローソン 日販 三菱商事
ファミリーマート 日販 伊藤忠
サークルKサンクス 日販 ユニー
ミニストップ トーハン イオングループ
デイリーヤマザキ トーハン 山崎製パン
am/pm 日販 ジャパンエナジー(関東)
セイコーマート 日販 丸ヨ西尾(北海道)
ポプラ(生活彩家) 日販 大黒屋食品(中国・九州)
スリーエフ トーハン 富士シティオ(関東)

 [ コンビニの取次は、日販がトーハンより多いが、両社とも売上高は2000億円ほどと推定され、ほぼ互角である。ファミリーマートとam/pmは双方とも取次が日販であるために変更はないが、サークルKとサンクスの合併の際には、前者がトーハン、後者が日販であったことから、日販に一本化されている。
トーハンや日販の社史において、組織図にコンビニセクションは記載されているが、その詳細は明らかにされていない。こちらでも水面下における帳合変更の動きがあるのかもしれない。例えばイオングループの未来屋書店などが、トーハンから日販へ変更している。とすれば、同じくイオングループのミニストップもその可能性があるのではないか。
なおコンビニではないが、キヨスクの取次は鉄道弘済会からトーハンへ切り替わったようだ ] 

2.  角川GHDが中経出版の全株式を取得し、子会社化。

[ 中経出版は、本クロニクル6で既述しているが、昨年9月に新人物往来社とその傘下にあった荒地出版社を吸収し、本来のビジネス書と新人物往来社の歴史書や時代小説をふたつの柱とする経営を発表したばかりだった。それをいきなり全株式譲渡という決議に至ったのは、これからの出版危機を予測し、株式の売り時と見定め、さらなる再編の波に乗ったということになろうか。しかし株式取得予定金額は非公開。角川GHDの10社目の出版事業会社となる ]

3.  文教堂GHDが、業務提携しているゲオなど18社を引受先とする総額3億9240万円の第三者割当増資。リストラに伴う不採算店の撤退費用が不足し、その資金調達のためとされる。割当先と株式数を示す。株価は1株当たり360円。

・竢o版社 4万株
・旺文社 6万株
・笠倉出版社 2万株
・技術評論社 4万株
・講談社 12万株
・ゴマブックス 2万株
・祥伝社 2万株
・成美堂出版 3万株
・セブンスター 2万株
(世界文化社の子会社)  
・辰巳出版 2万株
・中経出版 4万株
・徳間書店 2万株
・永岡書店 2万株
・一ツ橋マネジメント 12万株
(小学館関連会社)  
・双葉社 2万株
・文芸社 16万株
・三笠書房 4万株
・ゲオ 28万株

[ これも本クロニクル7で既述したように、文教堂GHDは昨年12月にトーハンに対し、約7億円の第三者割当増資を実施したばかりであり、資金繰りの苦しさを如実に示している。今回の第三者割当によって、文教堂の大株主として、これまでのトーハン(50万株)、角川GHLD(37万株)、辰巳出版(16万株+2万株)に続き、講談社、小学館、文芸社、ゲオが加わったことになる。これに伴い、文教堂は9店での直営レンタルから撤退し、ゲオのFCに加盟し、全面委託する。だから、トーハン、ゲオ、文教堂の関係はこれを機に加速するだろう。
出版社の増資引受は、文教堂売上上位50社への支援要請によるものとされているが、そのメンバーのちぐはぐさはリストに歴然と表われている。これらの出版社に関して、Garbagenews.com http://www.garbagenews.net/archives/416064.html が興味深い分析を行なっているので必見。だがいずれにしても、このように18社が並んだことは壮観で、株式数は現在の出版社状況を象徴しているように思われる。しかしこれで終わったわけではなく、文教堂をめぐる再編の動きはまだまだ続くだろう ]

4.  大日本印刷がジュンク堂書店の株式51%を取得し、子会社化したと発表。両社の声明は http://www.dnp.co.jp/jis/news/2009/090318_1.html を参照。

[ まだ情報が少なく、現時点で言えることはふたつしかない。
DNPは凸版印刷と並んで印刷業界の2強を形成し、売上高も拮抗しているが、丸善、TRCに続くジュンク堂の子会社化によって、情報コミュニケーション事業を新たに展開し、凸版印刷との差異化を狙っているのだろう。
ジュンク堂については、いささか旧聞に属するが、社長の工藤恭孝はかつて「人文会ニュース」(2000・1)のインタビューで、紀伊国屋の傘下に入りたいという発言をして、業界関係者を驚かせたことがあった。その「本心」の発言の重要な部分を引用してみる。

「どうして紀伊国屋さんという名前を具体的に口にしたかと言いますとね、今『ジュンク堂』の売上げが二百四十〜二百五十億円くらいなんですが、僕自身、自分の力量は自分が一番よく分かっているので、これほどの規模になってくると、僕の力量で運営していくのは、もう無理だなあと思うんです。その上、キクヤの売上げの百二十億円くらいを足すと、合併するかどうかは別にして、うちで運営していくだけの人材も甲斐性も無いと」

ただ工藤はジュンク堂買収の条件も出している。

「ジュンク堂をどちらかの会社が買って下さるんだったら買って貰っても良いと思ってるんですよ。でもね、全然方針が違うところに吸収されて、『専門書の店という今まで築き上げてきたものが、滅茶苦茶になって、優秀な社員までもが愛想尽かして出ていく、という事態にならなければ』という条件付きですけどね。『専門書の店はジュンク堂』というブランドでこの大型店を残してやろうという会社がどちらかにあれば、私に代わって、『是非とも運営していって欲しいなあ』っていう心境なんです(後略)」

多言を要するまでもなく、工藤の「本心」は変わっておらず、その後の出店に絡む借入金の増加や資本増強の必要が生じていて、売上高1兆7000億円に及ぶDNPからの買収のオファーは渡りに船で、彼の言う条件に適っていたのであろう。だがその株式取得価格は明らかにされていない。
その後丸善が、ジュンク堂と店舗事業で協議と発表。結果として、ジュンク堂 は紀伊国屋ではなく、丸善の傘下に入ったことになるだろう ]

5.  学研は10月に会社分割し、持株会社制へ移行。学研本体を学研HDSに商号変更し、新会社8社を設立し、子会社3社ともに事業を継承させる。
出版事業関連は、雑誌、実用書、文庫、新書部門は「学研パブリッシング」、絵本、児童書、図鑑、学参、辞典部門は「学研教育出版」、医療、看護書部門は「学研メディカル秀潤社」、取次営業は「学研マーケティング」、書店営業は「学研出版サービス」に引き継がれる。

6.  インプレスHDSは雑誌、ムックの販売低迷と広告収入の減少により、09年決算予想を13億円の赤字と下方修正。それに伴い、グループ全体の出版事業を中心に、不採算の雑誌やムックの休刊などの撤退、縮小に着手。

[ 5と6は出版危機における上場会社の対応であり、これらもまた再編の動きと見なせるであろう ]

7.  これも上場会社である地図の昭文社が、正社員の1割にあたる50人の希望退職者を募集。

[ 本クロニクル2で記したように、地図、ガイドの売上の低迷により、2年続きの赤字から脱却できず、リストラに踏み切らざるを得なかったのであろう。また地図やガイド関連の再編ということであれば、地図やガイドの専門取次の日本地図共販の行方はどうなるのであろうか ]

8.  07年にバウハウスの出版部門を引き継いだメディア・クライスが自己破産、負債25億円。

[ メディア・クライスは時計などのブランド物の雑誌を刊行していた出版社だが、昨年から販売部数と広告収入が急激に減少し、自己破産に至ったようだ。実際にブランド物の売上も落ちこんでいることもあり、このような分野の雑誌にも、広告出稿も含めて、その影響が出ているのであろう ]

9.  アマゾンが8月初旬に大阪に新物流センターを開業。千葉県の市川、八千代に続く第3の物流センターで、延べ床面積は2万550坪。関西や西日本地域への配送スピードのアップをめざす。
また主要出版社を集めて「事業説明会」を開き、責任販売制、一部新刊の買切などの提案が行なわれ、渡辺一文バイスプレジデント書籍事業本部統括事業部長がインタビューに答え、それが日本著者販促センター http://www.1book.co.jp/002701.html に掲載されている。

[ 長いインタビューにもかかわらず、質問と応答に隔靴掻痒の感がつきまとっている。それでもアマゾンがこのようなインタビューに応えたのは初めてであり、アマゾンが早稲田大学との提携や大阪の新しい物流センターも含めて、新たな展開に向けてのプロパガンダの一環であろうか。ただこのインタビューだけでは、具体的な展開がはっきり浮かび上がってこない ]

10.  電通の「08年日本の広告費」によれば、総広告費は6兆6926億円、前年比4.7%減。新聞・雑誌・ラジオ・テレビの「マスコミ四媒体広告費」はすべてマイナスで、新聞は前年比12.5%減の8276億円、雑誌は11.1%減の4078億円。インターネット広告費は同16.3%増の6983億円で、シェアは初めて2ケタを超える10.4%

[ それこそ「09年日本の広告費」は、経済危機の中で2ケタ減になるだろう ]

11.  文芸春秋の保守系オピニオン誌『諸君!』が6月号で休刊。1969年創刊であるから、ちょうど40年で姿を消すことになる。ずっと赤字が続き、最近は発行部数6万数千部に対して、実売は4万部に充たなかったようだ。

[ 文春は同誌が元々収益を取ろうとする雑誌ではないと述べ、休刊理由を体力のあるうちの休刊と説明しているが、文春も『文学界』や『オール読物』を始めとするいくつもの赤字雑誌を抱えているために、『諸君!』がまず最初に切られたのであろう。次なる休刊はどれか ]

12.  雑誌不況の中で、主婦の友社のティーンズ向け女性誌『カワイイ!』も6月号で休刊となる。その一方で「今まで見たこともない雑誌」である『小悪魔ageha』(インフォレスト)を一人で立ち上げ、35万部まで成長させた編集長中條寿子を、『女性自身』(3月10日号)の「シリーズ人間」と『アエラ』(3月16日号)の「現代の肖像」が特集している。
前者は7ページ、後者は5ページにわたり、週刊誌が相次いで、しかも他の雑誌の編集長を大々的に取り上げるのは異例のことだ。週刊誌販売部数で、35万部を超えているのは、『週刊新潮』と『週刊文春』だけであり、『小悪魔ageha』の売れ行きのすごさがわかる。だからほとんど大手出版社の週刊誌、総合誌、文芸誌なども売れ行きにおいて、このキャバクラで働く女性、つまりキャバ嬢を読者モデルにしたギャル雑誌の後塵を拝していることになる。

[ 私も『女性自身』の中條特集を読むまで、彼女もこの雑誌も出版社名も知らずにいた。そこで『小悪魔ageha』を書店に買い求めにいくと、ドカンと平積みになっていた。買うのは恥ずかしかったが、定価は580円で、数日後に確認すると売り切れていた。この「キャバ嬢版ギャル誌」の読者はキャバ嬢だけでなく、若い女性たちにも広がり、そこで紹介される「アゲ嬢ファッション」も流行し、実売30万部を超える「奇跡の雑誌」とよばれているようだ。若い女性たちの化粧やファッションがこの雑誌の影響を受けていることを初めて知り、ここにその起源があったのかと納得した次第だ。
プリクラ化したようなキラキラした表紙で始まるA4判の総カラーの雑誌は170ページほどで、読者モデルをふんだんに配置したファッション、目の化粧法、ヘア・スタイルの写真で埋まっている。編集部には1日に200枚以上の読者カードが届き、「かわいい雑誌をありがとう」「ageha嬢みたいにかわいくなりたい」と書かれているという。
中條は「読者の気持ちがわかる雑誌がやりたい」と考えて、05年に『小悪魔ageha』を立ち上げ、「奇跡の雑誌」に育て上げたことになる。そして彼女は次のようにも言っている。「勉強ばかりしてきた編集者が、上からの目線でつくった雑誌が多い。売れるはずがないんです」と。近代雑誌のコンセプトから現代雑誌へのセンスの移行の意味がそこにこめられ、現在の雑誌不況に対する彼女の批評があるように思われる。
私はこのような雑誌について語るほどの資格を持ち合わせていないが、それでもあえて述べるとすれば、雑誌というよりもチラシやDVDの編集といった印象を受け、また半分以上が広告で、タイアップしたページを合わせれば、3分の2ほどに及ぶのではないか、そしてそこには、過剰消費社会を漂流する若い女性たちの層を形成する、均一化した欲望が露出しているのではないかと感じられた。
本クロニクルを読み、初めてこの雑誌を知ったのであれば、百聞は一見に如かずであるから、ぜひ一度目を通してほしい。そこには現在の社会と出版業界の一端がまぎれもなく実在しているのだから ]

13.  小学館が新雑誌企画として『月刊少年サンデー』の5月創刊を発表した。もちろんそれと関係しているはずで、『週刊少年サンデー』が4月1日号で創刊50周年を迎え、あだち充×高橋留美子の「マイスイートサンデー」と題する合作を掲載している。その惹句は「日本漫画界が誇る2人の国民的作家と少年サンデーの青春の日々を描いた史上初となる合作読切ここに!!」とある。2人の単行本累計部数は合わせて何と3億7千万部に及んでいるという。

[ このリレー合作はとてもおもしろく、両者の漫画自伝であると同時に、図らずも昭和30年代以降の漫画史ともなっている。あだちは昭和26年の生まれで私とまったく同世代、高橋は6歳下の昭和32年生まれであるが、二人の漫画史は私の体験と重なり、『週刊少年サンデー』の初期の読者体験も含めて、戦後漫画史の草創期が思い出される。
あだちが昭和30年代に小学生であった頃、まだ34年に創刊された少年サンデーも読んでおらず、漫画といえば貸本マンガで、当時は町に貸本屋があちこちにあったとその「少年編」を始めている。ネームを引用してみる。

「狭い店内の棚いっぱいに貸本屋向けに描かれた漫画(劇画)の単行本が置かれていました。その世界はB級映画のような暗さと怪しさとインチキ臭さに溢れ、画も話も雑誌マンガに比べるとかなり乱暴で、(中略)大人達に言わせれば有害図書以外の何モノでもなかったが、そこで若き作家たちが行った漫画(劇画)の可能性を模索する数多くの挑戦は、のちの雑誌マンガをさらには漫画界を大きく変えて行くことになるのである。」

一方で高橋はその「幼少編」で、兄の読んでいた小学館の学年誌のオマケで、赤塚不二夫の漫画に出会い、「気がつけば――世界は漫画で満ちていた。兄の買っていた少年サンデーは小学校2年くらいから読み始めた」。
そしてあだちと高橋は漫画のリトルマガジンというべき『ガロ』や『COM』に出会い、投稿を始める。この二人は戦後になって初めて生まれた「漫画少年」「漫画少女」の典型であり、同世代に二人のような少年少女が多く存在し、それらの人々が、描くことや読むことにおける漫画の隆盛を支えたのである。
『月刊少年サンデー』はその役目を果たすであろうか ]

14.  しかしコミックにも危機がしのび寄ってきている。出版科学研究所によれば、08年のコミックスとコミック雑誌の販売額は4483億円で、前年比4.6%減と大幅なマイナスになった。内訳のコミックスは2372億円で、同4.9%減、コミック誌は2111億円で、同4.2%減。

[ 本クロニクル10で、07年までコミックスの販売額は安定した売上を保ち、危機とよばれる段階に入っていないと記したが、08年の数字を見ると、その兆候が露出し始めていると考えるべきかもしれない。とりわけコミックスの販売部数は4億7847万冊と、9年ぶりに5億冊を下回り、前年比7.6%というこれまでにない大きな落ちこみを示している。それに見合って、講談社、小学館、集英社、白泉社、秋田書店の大手5社の販売額も6%ほど減少しているようだ ]

15.  講談社の調査によれば、08年の書店廃業数は1095店で、売場面積は5万7684坪。新規出店は399店で、売場面積は5万9270坪だったことからすれば、店舗数の差はあるにしても、廃業店と新規出店の売場面積はほぼ同じで、在庫を坪当たり50万とすれば、50万×6万坪=300億円の返品が生じたことになる。膨大にして不毛な返品。また廃業店は07年の951店から144店増えている。以下にその推移を示す。

年度 廃業店数
1997 1,126
1998 1,066
1999 1,134
2000 1,253
2001 1,198
2002 1,298
2003 1,085
2004 984
2005 941
2006 934
2007 951
2008 1,095

[ 97年から03年にかけての7年間は1000店以上の廃業、04年から07年までは900店台と減少傾向にあったが、4年ぶりに廃業ラッシュの時期に入っている。それにしてもこの12年間の累計廃業店数は1万3065店であり、08年の書店数1万6110店と比べれば、現存の書店数の8割に及び、また日書連加盟店5595店の倍以上に当たる。この廃業店数がいかに尋常でないか、ただちに理解できるだろう。要するに出店にしろ、廃業にしろ、書店が異常なバブル状況下で営まれてきたことの証明であろう ]

16.  「地方・小出版流通センター通信NO.391」で、川上賢一がアカデミー賞を受賞した『おくりびと』の原作に相当する『納棺夫日記』について書いている。この映画の企画者で主演も務めた本木雅弘が、原作本をテレビで紹介したために注文が殺到し、万単位の増刷になったことを報告した後で、次のように述べている。30年以上にわたって、自ら少部数の出版物の配本を手がけてきた川上ならではの発言であるし、多くの人に読んでもらいたいので、引用しておく。

「このような話題になった出版物の流通は有難いのですが、一方で悩ましく、この委託万能、返品自由の業界で、いかに確実に読者に届けるかは至難の業です。品薄では読者や書店の問い合わせが煩く、潤沢に供給すれば大量返品となる危険があります。今回は文庫があったことが救いで、沢山売りたい書店は文庫に群がって、単行本はほぼ需要に近い送本ができると思います。しかし、昨今の書店環境の変化で感じますのは、かつて頼りになった地域一番店・老舗がほとんどなくなり、専門書や硬めの本を扱う大型チェーン店の支店も、それほどお客を引き寄せていない、お客から頼りにされていない状況で、うまく1冊の本を確実に届けるのは難しくなっていると、つくづく感じます。
日本の書店を動かしてきた人は、戦後は、本屋のおやじさん、そして60年後半からは、書店員、90年代に入って、運営者(マネージャーとでも言えますか?)と変わってきたように思います。運営者というのは、システムと言ってもいいのかも知れません。そしてこのシステムは、人々を分断し、無味乾燥な仕事環境を作り出しているように私には映ります。少し落ち着いてきたいまの時代、そこから抜け出す道を探さねばと願いますが、難しいでしょうか?」

[ この文章には川上の痛いほどの実感と危機感がこめられていると思う。書店員の時代と地方・小出版流通センターの創業が重なっていたゆえに、センターの成長があり、そこから『本の雑誌』や『広告批評』も送り出されてきたのだ。そして書店の現場では、確実に注文部数を売り切ってきたのである。そうした時代が終わってしまったことを、川上の一文は伝えている。
青木新門の『納棺夫日記』は93年に富山の地方出版社である桂書房から刊行された著作で、青木が『新潮45』4月号に書いた「『おくりびと』と『納棺夫日記』世界が日本の「死」を理解した日」を読んで初めて知ったが、自費出版で初版2000部だったようだ。それが版を重ね、10版、06年に『定本納棺夫日記』が出て3版、文春文庫は45万部に達している。ちなみに市立図書館で検索すると、閉架書庫にあったはずの桂書房版に、40名近いリクエストが寄せられていた。
川上によれば、文芸春秋の編集者である今村淳が書肆アクセスで同書を見つけ、文春文庫への収録も今村の企画だったが、彼は98年に45歳の若さで亡くなったという。それも同書をめぐる因縁めいたエピソードであるが、『納棺夫日記』はこの15年間に次のような経緯をたどったことになる。
無名の著者による地方出版社からの自費出版→地方・小出版流通センターによる流通と販売→大手出版社の編集者に見出されての文庫化→著名俳優による映画企画→ようやく実現した映画化→アカデミー賞外国語映画賞受賞→文庫と元版のベストセラー化といった長年に及ぶ『納棺夫日記』の軌跡は、本の神話の最後の輝きを放っているようにも思われる。しかしその一端を担った書肆アクセスも今はない  ]

17.  詩人の池井昌樹が『眠れる旅人』(思潮社)で三好達治賞を受賞した。彼はカリスマ書店員として雑誌などに登場することはないが、吉祥寺の小書店でずっと働いていて、この詩集の一編にも、一節にそのことが織りこまれている。

「あれから三十年、私はいまも本屋で働き、昼の休みの束の間を、『ミッキー・ドナルド』の窓辺の席で、煙草を吹かし好きでもない珈琲の香りに噎せながらぼんやり人波に眺め入る。見慣れ見飽きた都会の雑踏。私の肩を揺すぶってくれる、抱き締めてくれるもう誰もいない。」(「揺籃」)

[ 本クロニクル10で、評論家の石川好がかつての友人であったことを記したが、池井も同様で、私たちは奇妙な時代と環境を共有していたことになる。天才少年詩人と呼ばれた池井も50代半ばを過ぎたとは感慨深い。『眠れる旅人』は『現代詩手帖』の08年12月号の「今年度の収穫」で120人のうち30人以上が挙げていた詩集で、彼らの多くの評価を裏切らないすばらしい詩集である。しかし売れない詩集であるがゆえに、興味を持たれた読者は売上に協力する意味で、図書館にリクエストして読んでほしい。
現役書店員の著書として、小瀬木麻美の小説『何度でも君に温かいココアを』(ポプラ社)や児玉憲宗のエッセイ集『尾道坂道書店事件簿』(本の雑誌社)は様々に紹介されているが、『眠れる旅人』は誰も挙げていないので、あえて紹介してみた ]

18.  『朝日新聞』(3月12日)が、ニューヨークのグリニッチビレッジにあるオスカー・ワイルド書店の閉店を伝えている。1967年に同性愛者のための文学作品やノンフィクションを集めたアメリカで最初の書店とされ、ゲイ・ムーブメントの先駆け、同性愛者の権利を守る砦であったが、アマゾンなどによる売上の減少と、昨年からの経済危機によって、閉店に追いやられたようだ。

[ この記事を読んで、アメリカでもっとも卓越したゲイ作家と呼ばれるエドマンド・ホワイトが、その刺激的なエッセイ集『燃える図書館』(早川書房)で述べていた、レズビアンとゲイ専門書店のことを思い出した。ホワイトの記述を引いてみる。

「合衆国にはレズビアンとゲイ文学だけを取り扱って採算が取れている書店が、ざっと二十はある。通常の書店が、カゲロウのごとく棚持ちの期間が過ぎると売れ残りの本を返却してしまうのに対し、ゲイ書店ではゲイに関する本のありがたい在庫目録を何年も何年も維持してくれる。それに加えて、これらの書店はすべて通信販売事業を手広く行っている。」

  おそらくオスカー・ワイルド書店ばかりでなく、その他のレズビアンやゲイ専門書店も、ネット販売と経済危機の影響を受け、ほとんど閉店してしまったのではないだろうか。
かつて『薔薇族』の発行人である伊藤文学が毎月1000部売ってくれる小書店にふれていたが、アメリカでも日本でも、そのような悪所としての書店は消えていっているのであろう ]

19.  『日経MJ』(3月13日)が、やはりニューヨーク通信として伝えているところによれば、06年に清算したタワーレコードのライバルだった、CD量販店のヴァージン・メガストアズは、アメリカ国内の全店舗を閉鎖。
またDVDレンタル最大手で、7500店舗を展開するブロックバスターも経営危機が囁かれ、店舗閉鎖や財務の抜本的リストラに乗り出す。同業のムービー・ギャラリーも07年に連邦破産法を申請し、08年に再建手続きを終えたが、赤字続きで、CEOの辞任などもあり、先行きは不透明のようだ。
アメリカのCD、DVD販売をめぐって、アマゾンやウォルマート・ストアーズなどとの競争の激化、アップルの音楽配信サービス、ネットレンタル、動画配信の普及などによって、従来型のチェーン店は苦しい状況にある。

[アメリカで起きたことが日本でも起きるとすれば、日本のCDやDVDのセル、レンタル市場も急速な変化に見舞われるだろう。90年代からの複合大型店はCD、DVDのセルとレンタルによって支えられてきた。またTSUTAYAとゲオの成長もそれらが原動力だった。しかしそれらの成長が停止し、右肩下がりになっていく時期を迎えているのかもしれない。TSUTAYAやゲオの既存店の売上の減少はその兆候とも考えられる。
これらの動向を受けてか、TSUTAYA=CCCが急ピッチで大きな組織再編に取り組み、CCC本体に事業を吸収する方向で進んでいる。TSUTAYA=CCCの組織については本クロニクル6を参照してほしい。さらに子会社で人材派遣のデジタルスケープ売却、WAVE出版との企画、販売をコラボレーションした書籍の共同開発、Tカードのデータの販売といったポイントカード事業の展開と矢継ぎ早に進んでいる。傘下にあるはずの日本のヴァージン・メガストアズはどうなっているのだろうか。
日本のCDやDVDのセルとレンタル市場の動向を占う指針のひとつは、日販とCCCが設立したMPDの今年の売上高だと思う。本クロニクル2で記しておいたように、昨年の売上高は2115億円である]

20.  『サイゾー』4月号が「最近人気の“知識人”7人彼らばかりがなぜ売れる?」という特集を組み、その7人の書籍刊行数、08年雑誌登場回数、「この人がわかるキーワード」などを列挙している。7人の名前と刊行冊数を引いておく。

・茂木健一郎 全97冊
・勝間和代 全25冊
・内田樹 全85冊
・佐藤優 全85冊
・森永卓郎 全72冊
・香山リカ 全109冊
・斎藤孝 全293冊

[ この7人の名前や著書の新聞広告を毎日といっていいほど見ているような気がするが、よく売れるので、このように多く出版されているのだろう。斎藤に至ってはデビューから10年もたたないうちに300冊近い著作とは、まさに驚異的である。それでも読者は引きもきらず、どこからともなく湧いてくるということなのか。
7人の著書をほとんど読んでいないし、売れない著者の一人でしかないが、それでもあえて述べてみる。90年代の複合大型店によって急速に進行したベストセラーが、かつてと異なる規模で均一化、画一化する環境の中で、7人が「人気の“知識人”」としての地位を獲得したことから、さらに後追いするように編集者と企画も均一化、画一化し、このような現象に至ったのであろう。またそれを支えたのはこれもまた90年代から顕著になった郊外消費社会の住民たちの均一化、画一化であり、7人の売れ方は『小悪魔ageha』の奇跡的な売れ行きと無縁ではないと思われる。その後には何が控えているのだろうか。ここでは多品種少量生産という出版の本来の性格は、その影すらも追放されてしまっている ]

21.  なお本クロニクルは、未掲載の07年出版状況クロニクル、及び08年出版状況をめぐる対談という新たな2章を加え、5月上旬(予定)に論創社から『出版状況クロニクル』として緊急出版。

つづきはこちら。

小田光雄の著書

出版業界の危機と社会構造
出版業界の危機と社会構造
出版社と書店はいかにして消えてゆくか
出版社と書店は
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ブックオフと出版業界
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古本探究
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古本探求II
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