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出版状況クロニクル 14 (2009年5月26日〜6月25日)

小田光雄


敗戦後の占領下において、GHQにより様々な改革が進められ、それは出版業界も例外ではなく、一元取次の日配も解体され、現在の取次の誕生に至るのである。
またGHQが出した「言論及び新聞の自由に関する覚書」によって、出版業が自由になることで、多くの出版社が簇生し、あまたの雑誌が創刊され、戦後の出版業界が始まる。これはまさにGHQによる出版業界の再編であった。だがそこには曲がりなりにも「言論の自由」に象徴されるように、ファシズムから民主主義へという理念がこめられていた。再販制という置き土産があったにしても。
しかし現在の出版敗戦下において進められている、言わば第二の再編には何の理念もうかがわれない。近代出版流通システムの行き詰まりは誰の目にも明らかなのに、何の改革もなされず、投資ゲーム的なM&Aが行なわれている。ブックオフの株式を売却した投資ファンドは多大な利益を得たようだ。そのかたわらで、肝心の出版はやせ細っていくばかりだ。

 

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1.  出版科学研究所によって、08年度のムック販売金額が出された。それによれば、1062億円と8年ぶりに前年を上回る1.5%増である。
そこでこれまでは雑誌販売金額に関して、週刊誌、月刊誌別に出されていたが、月刊誌からムックとコミックの販売金額も抽出し、4つの分野での売上推移表を作ってみた。それを以下に示す。

  雑誌総販売金額 週刊紙 月刊誌 ムック コミック
1998 15,315 3,900 7,647 1,295 2,473
1999 14,672 3,707 7,343 1,320 2,302
2000 14,261 3,524 7,041 1,324 2,372
2001 13,794 3,419 6,575 1,320 2,480
2002 13,616 3,422 6,452 1,260 2,482
2001 13,794 3,419 6,575 1,320 2,480
2002 13,616 3,422 6,452 1,260 2,482
2003 13,222 3,239 6,202 1,232 2,549
2004 12,998 3,079 6,209 1,212 2,498
2005 12,767 2,862 6,139 1,164 2,602
2006 12,200 2,677 5,897 1,093 2,533
2007 11,828 2,698 5,589 1,046 2,495
2008 11,290 2,577 5,279 1,062 2,372

(単位 億円)

[ コミックだけが健闘していて、週刊誌と月刊誌の凋落がよくわかる。失われた10年とは週刊誌と月刊誌の落ちこみとパラレルに進行していたのだ。
この10年で週刊誌は1323億円、月刊誌は2368億円、両者で3691億円の減少である。雑誌総販売金額の落ちこみは4000億円だから、それがほとんど週刊誌と月刊誌の凋落に起因していることになる。
出版社・取次・書店という近代出版流通システムは雑誌とともに立ち上がり、また大手出版社も雑誌を根幹として成長してきた。それゆえにこの雑誌の凋落は、近代出版流通システムをさらに揺るがす事態へと追いやり、大手出版社の危機を招いている。
 しかもこの事態は今年に入って深刻化する一方で、1月から4月にかけての雑誌休刊は前年5割増しの91誌に及び、4月の雑誌推定販売金額は前年同月比8.0%減、販売部数は同9.8%減と大幅に落ちこんでいる。したがって09年の雑誌市場は、かつてなかった急速な衰退に見舞われる可能性が高い ]

2.  本クロニクル8で、日本ABC協会による08年上半期の主たる週刊誌の販売部数を報告したが、下半期のデータも発表されたので、その双方の数字を示す。

  08年上半期 08年下半期
サンデー毎日 78,353 68,832
週刊朝日 179,338 174,902
週刊アサヒ芸能 125,082 124,761
週刊現代 264,389 249,931
週刊新潮 444,114 446,688
週刊大衆 210,622 204,301
週刊プレイボーイ 221,209 207,233
週刊文春 502,709 519,074
週刊ポスト 306,010 297,120
SPA! 113,397 110,655
ニューズウィーク 71,883 66,730
週刊女性 195,201 195,787
女性自身 280,095 286,946
女性セブン 295,485 303,015
週刊ダイヤモンド 114,579 120,713
週刊東洋経済 89,842 93,136

[ 調査対象の157誌のうち、前年同期を上回ったのは38誌、下回ったのは108誌で、総合週刊誌8誌はすべてがマイナスである。対前年比も『週刊文春』と『週刊新潮』を除いてマイナスになっている。女性週刊誌はかろうじて前期比プラスだが、前年比はマイナスである。週刊誌49誌の総販売部数は736万部で、前年同期比8.05%減となり、週刊誌の危機が浮かび上がってくる。
上智大学でシンポジウム「週刊誌を考える」が開かれたのも、この危機を背景にしている。本クロニクル13で書肆紅屋による実況中継を記したが、『創』の7月号も「週刊誌がこのまま潰れてしまっていいのか」と題し、週刊誌10誌の現・元編集長と田原総一朗や佐野眞一たちの発言を掲載している。
このようなイベントも結構だが、やはり週刊誌はコンテンツに尽きる。どの週刊誌にも顕著なのは、書評に力が入っていないことで、マンネリの評者と出来レースのような本の紹介ばかりだ。細部の輝きが週刊誌から失われて久しいように思う ]

3.  雑誌の生命線は販売部数もさることながら、広告収入にある。しかしそれも05年の4842億円に対して、08年は4078億円と764億円の減となっている。とりわけ08年は急減し、1年間で507億円と1割以上の落ちこみを示している。
雑誌だけでなく、広告市場の予算削減の影響をもろに受け、電通が創業期以来の最終赤字に転落した。電通の雑誌広告シェアは16%で、最大とされている。『週刊東洋経済』(6月13日号)が「大激震!広告サバイバル」と付し、「電通VSリクルートVSヤフー」という特集を組んでいる。それによれば、雑誌広告市場は新聞より厳しく、3月は30%以上の減となっているようだ。
特集は電通1兆8871億円、リクルート1兆0839億円、ヤフー2657億円の売上高を掲げた後で、3社の利益と株式時価総額は売上高と「真逆」だと指摘している。そしてリクルートの販促ツール的な自社メディアの広告直販体制、フリーペーパーの配布システム、及びヤフーの圧倒的集客力(アクセス数)と比較して、テレビや新聞や雑誌といったマス広告依存度が高い電通に不況構造変化の津波が直撃している状況を提示し、電通OBの「一言でいえば、電通と博報堂が作ってきた業界のルールが自滅しかかっている」との証言も掲載している。

[ 電通OBの証言は衝撃的である。なぜならば、雑誌広告の仕組みも「電通と博報堂が作ってきた」ものであり、それも「自滅しかかっている」ということになるからだ。博報堂も同様に赤字だった。大手出版社を成長させたのはマス雑誌であり、もちろんそれを支えたのは取次、書店、読者だったが、その背後には電通や博報堂が控えていた。ところがその雑誌を支えた近代出版流通システムと広告システムの双方が同時に危機に陥っているのだ。今年の雑誌広告収入の落ちこみは、昨年をはるかに上回るであろうし、最悪の場合、3000億円を割るかもしれない。もしそうであれば、ムックの一年分の販売金額に相当する広告収入が消えてしまうことになる ]

4.  1でムックの前年比1.5%増の1062億円の販売金額を記した。しかしそれはムックの内容によっているのではなく、本クロニクル12で言及したDVDなどの付録によって、前年増へと転じたと思われる。  『出版月報』4月号がこの6年間の「雑誌・部門別付録添付回数」をレポートしているので、その「総合計」だけを抽出してみる。

2003 7,724
2004 8,608
2005 10,972
2006 11,722
2007 12,292
2008 13,238

[ ここ6年で、倍増している。03年は「雑誌全体の総発行回数」に対して、付録は1割強だったが、08年には2割近くに及んでいる。私も『ゲッサン(月刊少年サンデー)』の6月創刊号を買ったが、やはり付録がついていた。
付録は大衆誌、婦人誌、少年少女誌から始まり、戦後になって学年誌やコミック誌に引き継がれてきた。このように付録も歴史があるために、少年少女誌や学年誌の付録を集成した『おまけとふろく大図鑑』(「別冊太陽」)といった本を見ると、付録が日本独自の出版文化の一角を形成しているとわかる。だがこの本で明らかなように、付録は本来低年齢の読者層を主体とする雑誌につけられていたものだ。とすれば、近年の付録の倍増は、読者層というより雑誌の消費者層が、精神も含めて低年齢化していることの現われではないだろうか。
『出版月報』は付録について、「ジャンルでは大衆誌、趣味誌、ムックの増加が目立つ。DVDを定期的に付ける雑誌が増えているからだ。付録より内容だと分かっているものの、やめられないところがつらい」と分析している。だがおそらく付録ブームもピークに近づいていて、下降に至れば、それと同時にムックの販売金額も再び落ち始めることになろう ]

5.  リトルマガジンの休刊も続いている。本クロニクル13で、学燈社の『国文学』の休刊を伝えたが、もう一冊の至文堂の『国文学解釈と鑑賞』もぎょうせいへと発売元を移している。
また新書館の「歴史・文学・思想」誌『大航海』も今月で休刊である。94年創刊、71号で終刊を迎えたことになる。最後の特集が「ニヒリズムの現在」で、現在の出版状況を告げているかのようだ。それぞれの休刊の言葉は印象深いので、引用し、言及してみる。

[ まずは『国文学』の「編集後記」から。
「今からさかのぼること五十四年前、昭和三十一年、創業者・保坂弘司の編集のもと、雑誌『国文学』は誕生しました。(中略)以来、多くの読者、研究者の方々に支持されながら、『国文学』は文学研究に欠かせない雑誌となってきました。その歴史にいま一つの幕が降りようとしています」と書き出され、「時代の波に飲まれ、残念ながら雑誌『国文学』は休刊することになりました」と報告している。表3には笠間書院からの「54年間、ほんとうにお疲れ様でした。いつか復活する日がくることを、お待ち申しあげます」という異例のメッセージ広告が寄せられている。
学燈社も笠間書院も教科書を持たない国文学の出版社であり、学習参考書や大学の教材が主だと思われるが、この分野の版元も経営が厳しくなってきているのだろう。それと同時に、国文学に限らず、研究者たちが本や雑誌を読まなくなっている状況を確実に告げている。
『大航海』は「編集部からのお知らせ」で、
「諸般の都合により、『大航海』は本号をもって終刊することになりました。長くお付き合いいただきました読者の方々に心から御礼を申し上げます。また、編集部の非力をお詫び申し上げます。毎号、特集というかたちで問いかけてまいりましたが、そのすべてが無意味だったと考えますと恐ろしくなります。不必要なものは消えさるべきですが、編集に問題はあっても内容に問題があったとは思いません」と記され、「再刊される時機が来ることを願いつつ、さようなら」と結ばれている。
これは無署名だが、三浦雅士の手になるものと考えていいだろう。「そのすべてが無意味だったと考えますと恐ろしくなります」の一文は『ユリイカ』『現代思想』から『大航海』にかけての三浦の編集歴の「すべてが無意味だった」のではないかと問いかけているようにも読める。長くなってしまうので言及しないが、それに関連して、三浦は署名入りで「時代概念の終わり」と題する一文を寄せていて、こちらがまさに「終刊」の説明となっている。興味ある読者はぜひ参照してほしい。
新書館はコミックの売上に支えられていたから『大航海』もここまで持続できたが、それも限界に達したのであろう ]

6.  その一方で、思潮社の『現代詩手帖』が6月号で創刊50年を迎えて特集が組まれ、またそれを祝して7時間を超えるイベントが開催されたという。

[ 現在『塩澤実信・戦後出版史セレクション』を編纂し、戦後の雑誌の創刊と編集者の関係をその1章に仕立てたばかりだが、驚くべきことにそれらの雑誌のほとんどが消滅しているのである。『現代詩手帖』の創刊は1959年6月だから、詩の雑誌としては奇跡的に存続してきたといえよう。ただそれを支えてきたのは、思潮社の収益が詩集の自費出版事業にあったことを付け加えておくべきだろう。雑誌とそれが思潮社という車の両輪となって、半世紀にわたって駆け抜けることを可能にしたのである。
それから詩人を社長とする新風舎の自費出版事業が、思潮社の悪しき模倣であったことも忘れないで書き留めておこう  ]

7.  前出の『週刊東洋経済』で、リクルートが自社メディアによる広告直販体制を組み、そのメディアはマスではなく、販促ツール的であるという指摘を紹介した。「販促ツール的」とは言い得て妙で、現在はメディアファクトリーから発売されている『ダ・ヴィンチ』もリクルートが創刊した雑誌だった。

[ その『ダ・ヴィンチ』7月号が、「祝★マンガ家生活25周年!原作映画公開!2009年はサイバラYEARだ!」との惹句で、「ニッポンのオカン・西原理恵子スペシャル」を編んでいる。
西原は日常生活を描いて深い哲学に達したマンガ家のように思えてくる。とりわけ『ぼくんち』(小学館、角川文庫)は彼女の最高傑作で、その読後の感慨は業田良家の『自虐の詩』を読んで以来のものだ。
たまたまこの「スペシャル」は太宰治のミニ特集もあり、西原こそが現代の原色の太宰治ではないかと考えてしまう。「販促ツール的」な『ダ・ヴィンチ』によって、西原の読者が増えてくれることを願う。
残念ながら日本ABC協会の調査雑誌に『ダ・ヴィンチ』は含まれていなかった。この出版不況下で広告収入は落ちているはずだが、発行部数は保たれているのだろうか。またどれほどの発行部数なのか、知りたいと思う  ]

8.  小学館の売上高は4年連続減収の1275億円で、前年比9.8%、63億円の赤字決算となった。売上高の内訳は、雑誌が456億円で前年比7.5%減、コミックが284億円で同13.6%減、書籍が204億円で同11.9%減。また広告は205億円で同13.9%減。

[ 週刊誌、月刊誌、コミック、書籍、広告といずれも大幅なマイナスで、満身創痍の状態であることがうかがわれる。
講談社、角川GHD、小学館の今年度の赤字決算が連続して明らかになった。集英社の決算発表は九月だが、やはり苦しいと伝えられている。もし集英社も赤字決算となれば、4大出版社のすべてが赤字ということになり、雑誌の凋落とともに大手出版社が危機に追いやられている実態がクローズアップされることになる。
本クロニクル13で角川歴彦の言葉を紹介したが、大手出版社もまた地獄に落とされているのである  ]

9.  地図の昭文社は売上高が156億円で、前年比11.6%減、60億円の2年連続の赤字決算となり、62人の希望退職を実施。

[ 地図やガイドの落ちこみが激しいようで、出版物売上は98億円で、前年比14億円の減収となっている。以前にも指摘したが、地図、ガイド類は年度版となり、かつてのような高収益を生みだす出版物ではなくなったことが主たる要因であろう。またそれらが紙で、有料であった時代の終わりを告げているのかもしれない ]

10.  大日本印刷グループと大手出版社3社が、株式を取得したばかりのブックオフの09年3月期の連結業績が発表された。売上高は605億円で前年比19.8%増だが、純利益は投資有価証券評価損などの特別損失もあり、10億円と同2.0%減。
ブックオフ本体の売り上げは447億円で、前年比8.9%増。店舗数は15店増の917店で、内訳は直営319店、FC598店となっている。

[ 売上高の大幅な伸びは、TSUTAYAのFC22店を運営するワイシーシーと青山ブックセンターの買収による50億円の上乗せ、100億円を超える中古ゲーム販売額の寄与があったとされている。投資ファンドはこれらのブックオフの伸長を織りこみ、株式を高く売り抜けたと判断できよう。
ブックオフは『商業界』6月号で、03年から07年にかけての伸び続ける「書籍リユース市場の推移」を示している。それによれば、03年のリユース市場の売上高は690億円、ブックオフの売上高は401億円でシェアは58.1%、07年のリユース市場の売上高が833億円、ブックオフの売上高は492億円でシェアは59.1%であると表明している。どのようなデータから07年の833億円が算出されたのかわからないが、06年は766億円なので、1年で67億円の増加は不自然な数字に映る。しかも今回の決算期のブックオフ売上は447億円であるから、07年に比べてそのシェアは落ちていることになる。
本クロニクル13で、「古本市場」を展開するテイツーの社長の「すでに成熟した市場」で、「淘汰に入っている」という言葉を紹介しておいたが、どちらの見解が正しいのだろうか ]

11.  その一方で、古書・中古CDのブックアイランドが自己破産、負債は2億2000万円。1988年創業で、「ブックアイランド」チェーンを展開し、直営3店、FC57店となっていたが、売上不振から02年の7億円が3億4000万円と半減し、自己破産を申請。

[ 古本業界の事情通によれば、ブックアイランドは所謂「新古本産業」の末端に位置する会社だったようだ。「すでに成熟した市場」で、「淘汰に入っている」ことの例証とも考えられる ]

12.  紀伊国屋書店が凸版印刷と業務提携を発表。

[ 大日本印刷と丸善・ジュンク堂の買収に対抗するものではないとされているが、この時期に発表されたからには再編の流れの中に紀伊国屋も入ったと考えるしかないだろう。出版社ではぴあが凸版印刷の傘下にあるので、凸版印刷と紀伊国屋をつないだのはぴあの関係者かもしれない ]

13.  日販の売上高は6327億円で、前年比2.2%減の11年連続の減収。当期純利益は11億円で、同8.8%減。関連会社22社を加えた連結決算売上高は7700億円で、前年比2.3%減だが、純利益は前期が3000万円だったこともあり、大幅な増益で16億円。

[ しかし日販とCCCの合弁会社MPDは売上高が2092億円で、前年比1.2%減。当期利益は8億円を計上しているが、設立2期目で前年比マイナスであることは、TSUTAYA市場の売上が伸びていないことに尽きるだろう。日販帖合の書店は5000弱であるから、驚くべきことに3分の1近くがTSUTAYAということになる。今年こそはMPDのみならず、大型複合店としてのTSUTAYAモデルの真価が問われるであろう ]

14.  トーハンの売上高は5748億円で、前年比7.2%減、当期純利益は10億円で、同13.1%減、3年連続の減収減益。子会社12社を加えた連結決算売上高は5835億円で、当期純利益は17億円。

[ 前年比%で示すと、それほどリアルでないのだが、金額にするとトーハン単体で441億円のマイナスなのである。日販のほうも341億円のマイナスで、1年間の2大取次の減収は782億円という巨大な金額になる。今期は雑誌の凋落を受け、さらなるマイナスが予想される。2大取次が赤字決算という事態も生じるのではないだろうか ]

15.  大阪屋の売上高は1282億円で、7年連続の増収だったが、洋販と明林堂書店の破綻の影響をこうむり、35億円の特別損失を出し、30億円の同社初の赤字決算となった。

[ そのかたわらで、大阪屋は栗田出版販売と9月に共同出資会社を設立し、首都圏に新物流センターを開設すると発表。どのような相乗効果があるのかはっきりしないが、この時期に5000坪の土地を手当てし、20億円を必要とする設備投資はリスクが高いように思える ]

16.  アルメディアによる09年5月1日時点での書店数が公表された。それによれば、書店数は1万5765店で、前年調査時より577店減少している。08年5月から09年4月にかけての新規出店は370店、閉店は1144店で、売場面積は大型化が進み、100坪以上の店がほぼ8割に達し、複合大型店のシェアの拡大がわかる。

[ 1980年代から現在までの書店史を見てみると、ひたすら減少の道をたどっていたことになる。70年代には2万3000店あったとされるので、単純に比較しても7000店以上が消滅している。もちろんその間に絶えざる出店があったわけだから、当時の書店の大半が退場してしまったと考えられる。その流れは次のようなものであった。商店街の書店→郊外型書店→複合大型店→ショッピングセンター内書店と推移していった。しかし一時に比べて、出店は沈静化しているが、閉店数は止まっていない。
アルメディアの都道府県別書店数の増減を見ると、志賀県と沖縄県でそれぞれ6店と1店が増加しただけで、香川県で増減がなかった他はすべて減少しているのである。つまり出版物販売金額がどこまで落ちこんでいくか、わからないように、書店数もいつまで減り続けていくのか、わからない状況にある。しかも閉店は商店街の小書店が主流ではなく、郊外型書店以後の大型店の比重が高くなっている。新規出店しても、利益が上がらないから、閉店していると判断するしかない。それが再販委託制下の書店の現実なのだ。
トーハン、日販も脱委託制の責任販売を提唱しているが、年間1000店以上に及ぶ閉店事情は、限定的責任販売の導入で改善されるものではないし、そのことは取次自身が承知していることだろう。今年の閉店はかつてない数に及ぶかもしれないし、それは取次や出版社のただでさえ弱っている体力を直撃することになる  ]

17.  本クロニクル9で、筑摩書房社長の菊池明郎の書店マージンを35%から40%とする買切・時限再販案を紹介し、不退転の決意でなされた発言だと評価しておいた。ところがいつまで経っても、その具体案が提出されず、どうなっているのか疑問に思っていたが、ようやく発表された。
それは意外なことに、筑摩書房単独ではなく、河出書房新社、青弓社、中央公論社、二玄社、早川書房、平凡社、ポット出版の8社34点で、筑摩書房は書店35%マージンと返品歩安入帳による「責任販売提案商品」として10点、「時限再販商品」として1点を提案している。実施は11月予定。
『新文化』(6月11日)のインタビューに菊池が答えているので、それを要約してみる。
*筑摩書房の5回に及ぶ社内会議で検討したところ、実績のある良書の復刊・重版でやってみることに決まった。
*3月半ばに出版社20社ほどと「共同責任販売会議」を設け、ようやく大詰めの段階まできた。
*そこで出版社8社が復刊・重版というかたちで、買切ではなく、書店マージン35%に対して、35%の取次歩安入帳(出版社と取次間は未定)を提案した。
*しかしこのような特別正味取引は現在の流通システムでは対応できず、手作業になるので、取次からは販売期間を区切ってほしいという声が上がっている。
*「買切・時限再販商品」は筑摩書房の『幕末』(定価1万2000円予定)の1点で、書店マージンは40%。
*11月に実施予定で、書店には各社の新刊案内で知らせ、営業部が受注活動を行なう。フェアではないので、書店からは単品注文も受ける。ただし採算が取れる部数にまで届かなかった場合、復刊を見合わせることもある。
*大手出版社であれば、新刊で勝負できるが、中小出版社の場合、補充注文の問題もあり、リスクが高い。だから復刊というローリスクから始め、新刊まで拡げていくつもりだ。
*文庫、新書は定価が低いので、書店にとって魅力あるマージンにはならず、責任販売商品としては難しい。
*この企画は通常の返品率の半分の20%で収まれば、大前進で、品切書籍も出版社にとって、小さなビジネスとなる。また成功すれば、厳しい出版業界の状況を打開していく可能性もある。

[ 正直に言って、肩透しをくらったような感じである。大山鳴動して、34点の「責任販売提案」とはと言うしかない。
以前に筑摩書房が試みた全集類の責任販売よりも後退している提案のように見える。それに復刊という発想がよくわからない。書店マージン35%が成立する商品だからという説明はいいとしても、買うのは読者であるから、これらに復刊ロットを充たす需要が喚起されるだろうか。
ちなみに古本のネット販売である「日本の古本屋」「紫式部」、アマゾンのマーケットプレイスを検索すれば、これらの本はほとんど復刊価格より安く見つかるだろう。
もちろんここまでこぎつけるために、菊池や各社がとった労が多大なことを認めるにやぶさかではないが、34点の「責任販売提案」が出版業界の厳しい状況を打開していくとは、残念ながらとても思えない。
要するに現在の流通システム下において、歩安入帳を伴った買切・時限再販商品の広範な実施は不可能だと考えるべきだろう。
これは私の勝手な思いこみで、菊池には何の責任もないのだが、三笠書房社長の押鐘富士雄のエピソードが脳裏に浮かんだのである。1968年に三笠書房は倒産し、再建の営業をまかされた押鐘は新風会の例会に乗りこみ、「伝統ある三笠書房を助けてほしい」と訴えた。そして倉庫に山と眠っていた『クローニン全集』などの全集類を正味五掛の直販で扱ってもらい、死蔵に近かった4千セットが商品として甦り、完売して会社を再建させたというエピソードだ。
もちろん時代も状況も異なっているので、無理は承知の上だが、菊池に大胆な実行を期待してしまったのだ。しかし押鐘の行動に示されているように、出版社と書店の協力関係と相互扶助が保たれていた時代もあったのである。
さらに筑摩書房も一員となっている人文会のメンバーのうち、今回の企画に加わっているのは平凡社だけだから、ほとんど賛同を得られなかったことがわかる。人文書出版社の最大の団体である人文会も、相変わらず再販維持の側に位置していると思われる。そのような出版状況ではないことをわかっていないのだろか ]

18.  その人文会から『人文会ニュース』105号が出された。この号は人文会創立40周年を記念して、昨年12月23・24日にわたり、全国の人文会特約店の中から100店の書店、大学生協の人文書担当者を東京に招き、「人文書の可能性を探る」と題し、「東京合同研究会」を開き、その内容を収録した特別号となっている。
竹内洋の講演「教養主義の没落と人文・社会科学」、パネルディスカッション「人文会の40年と人文書の可能性」「人文書の最前線」、ケーススタディ「人文書販売の現在と未来」、フリーディスカッション「人文書販売の未来をデザインする」、そして「東京合同研修会参加者アンケート」も付け加えられている。

[ この特集号の何よりの特色は、参加した書店の人文書担当者の生の声が聞けることだろう。これまでこの規模で人文書出版社と書店の人文書担当者が一堂に会することはなかったと思われる。
これを機会に人文会は書店の人文書担当者と常時交流できるようなホームページを設けるべきではないだろうか。そこに著者、編集者、読者の声も反映させれば、新しい人文書広場となる可能性もある。
この『人文会ニュース』は月曜社の小林浩から贈恵を受けた。私は小林の卓抜なレジュメ能力とチャートの作り方から見て、彼を出版業界の浅田彰だと考えているのだが、この号でも収録資料にその才がいかんなく発揮されている。これからの人文書フェアや企画、新たなる人文書をめぐる交流の場には彼のような人物が不可欠だと思われる。
なおこの号は5月に出て、〈非売品〉となっているが、まだ人文会各社に在庫はあるだろう。とりあえず人文会ホームページのアドレスを記しておく。
http://www.jinbunkai.com/html/ti_osirase_iti.php  ]

19.  幻冬舎新書から藤木TDCの『アダルトビデオ革命史』が出た。誕生して40年に及ぶアダルトビデオの歴史を、第一人者が初めてまとめた知られざる文化史の一冊で、今年の「新書大賞」に推薦したい力作だ。

[ 本クロニクル12で、ポルノ雑誌にふれ、それらにアダルトDVD付録がついていることを書き、もはや実態は雑誌出版社ではなく、DVD出版社ではないかと指摘した。
近年アダルトビデオは雑誌付録となることで、膨大な本数が流通している。さらにそれらを主体とするアダルト書店3000店のこともあり、アダルトビデオを抜きにして、現在の出版業界を語ることはできないと思われる。
『アダルトビデオ革命史』によれば、年間制作本数は1万タイトルを超し、世界屈指のポルノ生産国となっていて、そのクオリティの高さから、コミック、アニメと並び、日本を代表するコンテンツになっているという。驚くべき制作本数であり、それは文庫、新書の合計新刊点数に匹敵するほどだ。
それから新書に関してだが、出版科学研究所のデータによれば、08年教養新書系レーベルの新刊は、前年比175点増の1623点である。しかしベストセラーの著者や大学の教師によるもの、実用書やビジネス書的なものが多く、新しい著者と新しいテーマの発掘がなおざりになっている印象が強い。
80年代のノベルス新書ブームは新たな作家たちを多く輩出させ、現在のミステリーブームの基盤を築いた。そうした役割を教養新書も果たしてほしい。その意味において、本書の刊行は快挙であり、広く江湖の読者に勧めたい ]

20.  本クロニクルの目的は日本の出版業界の真の危機を伝えることにあるが、『出版ニュース』5月上旬号に、「世界の出版統計」が8ページにわたって掲載されているので、日本と比較する意味もあり、主要各国の出版動向を追ってみる。

*アメリカ
07年の新刊及び重版の総出版点数は17万3680点で、前年より2.5%ほど増加。その内訳は1.ハードカバー、2.トレード・ペーパーバック(一般書のペーパーカバー本)、3.マスマーケット・ペーパーバック(大衆市場向け文庫サイズのもの)にほぼ集約される。それらの新刊点数と平均単価を次に示す。
 1、6万7395点    80.08ドル
 2、10万1027点   36.78ドル
 3、4918点      9.99ドル
 書籍の総売上高は約250億ドルで、06年より3.2%成長。
*イギリス
08年の総出版点数は12万947点で、前年比4.4%増。総売上高はインヴォイス価格で約30億ポンド、6.7%の伸び。返品率は9%。またイギリスが誇るオックスフォード大学出版局グループは売上高を4.5%伸ばし、ランキング8位を保ち、同じく学術出版社のジョン・ワイリーが初めてトップ10入り、9位となっている。
*ドイツ
07年のドイツの初版点数は8万6084点で、前年比6%増。平均単価は25.25ユーロ、総売上高は95億7600万ユーロで、前年比3.4%増。書店シェアは53.6%でトップだが、2位は出版社直販で18%、3位が訪問・通販で12.6%となっている。
 商品別では文芸書が総売上の30.39%を占めて最大である。
*フランス
07年の新刊点数は6万376点で、前年比4.6%増。総売上高は71億5000万ユーロで、前年比5%増。返品率24%。
*ロシア
07年の発行点数は10万8797点で、前年比6.4%増。平均発行部数は6119部で、500部以下の書籍が全体の37.5%、1000部〜5000部の本が39%と最も比率が高い。総売上高は不明。
*中国
07年の新刊点数は13万6226点で、前年比6.12%増。重版点数は11万2057点だが、中国の特徴は新刊、重版とも教科書、学習参考書の占める割合が高く、両者で5万3997点に及んでいるという。総売上高は不明。
*台湾
07年の出版点数は4万2018点で、微減だが、登録出版社数は9625社で、そのうち雑誌社5395社。06年には9176社だったから、出版不況の中でも出版社は増えている。しかし年間を通じて出版活動をしているのは500社以下とされる。総売上高は不明。
*韓国
08年の新刊点数はコミックを含めて4万3099点で、前年比4.9%増だったが、刊行部数は2598万部という大幅な減。コミックは6541点で、そのうち日本の翻訳コミックが2404点となり、そのシェアは36.8%。総売上高は不明。

[ 07年と08年のデータが混在し、統計の取り方もすべて共通しているわけではないが、各国の新刊点数、その内訳、総売上高、出版社特色、書店シェア、返品率など目安となる数字を拾ってみた。ここでは産業構造的に日本と同様に消費社会化しているアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスを見ての印象を述べてみる。
欧米も出版不況の影響を受けていると伝えられてきたが、売上高を見る限り、回復の兆しがあり、日本の出版業界の底なしの危機とは状況を異にしているように思われる。
それとこれは不勉強のためにはっきりつかめないが、欧米の場合、ここに示された数字はすべて書籍のもので、雑誌とは区別されているのではないだろうか。例えばアメリカであるが、ハードカバーだけで7万点弱の新刊が80ドルの平均単価では発行されているのは驚きである。この数字は01年の日本の全新刊点数に匹敵するし、その平均価格に至っては1181円だから、アメリカのトレード・ペーパーバックの平均単価にも及ばず、マスマーケット・ペーパーバックに近いことがわかる。07年はさらに下がり、新刊点数7万7417点で1152円。
もはやイギリス、ドイツ、フランスに言及するまでもなく、アメリカだけ見ても、日本の本が安すぎるのだ。それは日本の書籍市場が自立して形成されていなかったことを証明している。そして欧米に比べて、日本は間違いなく書籍出版後進国なのだ。
これは繰り返し書いてきたが、日本の近代出版流通システムは雑誌とともに立ち上がり、マス雑誌の登場によって形成され、成長してきたのである。それに相乗りするかたちで、書籍も生産、流通、販売がなされてきた。したがって書籍もまた雑誌をビジネスモデルとしていた。文庫、新書こそは廉価の定期刊行物であり、雑誌の書籍版だったとも言える。巻数物の文学全集や事典類もまた同様である。
しかし現在問題なのは、その要となる雑誌が凋落しつつあることで、書籍の相乗りが不可能となってしまった事態を迎えているのだ。だからこそ自立した書籍市場を出現させ、書店が書籍を販売することによって、利益が上がる現代出版流通システムを構築しなければならないと切に思われるのである ]

21.  『思想』の6月号がグーグル問題についての小特集を組んでいる。その中でも優れた書物史家のロバート・ダントンの「グーグルと書物の未来」は出色の啓蒙的にして専門的な論文で、多くの示唆を与えてくれる。現在、彼はハーバード大学図書館長も務めているという。グーグル問題について、あえてふれないつもりできたが、きわめて示唆に富むので、言及するしかないだろう。
 ダントンはこの論文で、主として次のような歴史的経緯をふまえ、グーグル問題へとアクセスさせている。
 1、18世紀啓蒙主義、及び啓蒙された人々からなる「文芸共和国」のコアというべき情報公開と自由なアクセス。
 2、公共の利益と啓蒙主義に基づく公共図書館の設立。
 3、著作権の問題とその歴史的背景と推移。
 4、19世紀における学問の専門化と大学。
 5、専門化を通じて起きた高額学術ジャーナルの図書館定期購読問題。
 このような歴史を経て、図書館を中心とする電子的なネットワークは専門の「学術の共和国」をアマチュア(学問を愛する一般市民)にも開放した。それは無料で入手できる様々なインターネットアーカイヴの出現によって可能になった。
一方で、グーグルは世界最大の図書館、書籍ビジネス、電子情報会社となり、情報アクセスという新しい独占を手にするかもしれず、その果てに何が起きるのかわからない。
知の民主化、啓蒙主義の理想の実現とも言えるが、図書館コンテンツの広範囲なアクセスを保証しないで、デジタル商品化し販売することは、インターネットを、公共の領分にある知を私有化する道具にしてしまう。公共の条件において、また民主的にデジタル化しなければならないし、「文芸共和国」にヒントを得た、文化遺産をオープンアクセスできる「学問デジタル共和国」の創造を願うしかない。

[ 精緻な論述をうまく要約できたか心もとないので、興味を持たれた読者はぜひ本文を読んでほしい。グーグル問題関係者のみならず、出版業界と図書館業界必読の文献だと思う。なおこの論文は、フランス語からの抄訳が「グーグル・ブック検索は啓蒙の夢の実現か?」と題し、『ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版』 http://www.diplo.jp/articles09/0903.html 09年3月号にも掲載されている。
グーグル問題を書き出すにあたって、ダントンは書物の行方の未来はわからないとしながらも、研究図書館の共通の目的は、蔵書の開放と利用者がどこにいても閲覧してもらいたいことだと述べ、その目的地にどのようにたどりつけるのかと自問し、次のように書いている。
「唯一の有効手段といえば、よく目を見開いていることしかないかもしれない。つまり、できるだけ前方をしっかり見据えること、そして道に目をやり続ける間にもバックミラーを覗くことを忘れないことだ。」
碩学にあやかって恐縮だが、本クロニクルもこの視座で書き続けているつもりだ ]

つづきはこちら。

小田光雄の著書

出版業界の危機と社会構造
出版業界の危機と社会構造
出版社と書店はいかにして消えてゆくか
出版社と書店は
いかにして消えていくか
ブックオフと出版業界
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古本探究
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古本探求II
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