論創社
サイトマップ

出版状況クロニクル 15 (2009年6月26日〜7月25日)

小田光雄


単行本『出版状況クロニクル』が刊行されて、ほぼ3ヵ月になる。
『図書新聞』と『週刊読書人』の紹介をのぞき、書評も紹介も出ていないが、ジャーナリズムからのコメント依頼は絶えない。
これらの事実は本クロニクルがタブーと真実にみちていることの証明となろう。

>>  バックナンバー

1.  『日経MJ』の08年度「専門店調査」が発表された。書店売上ランキングを示す。

順位 雑誌総販売金額 売上高(百万円) 伸び率(%) 経常利益(百万円) 店舗数
1 紀伊国屋書店 119,832 2.1 519 62
2 丸善 95,853 ▲5.7 311 47
3 有隣堂 54,660 2.2 293 45
4 ジュンク堂書店 42,169 4.0 150 33
5 ブックオフコーポレーション 40,647 9.2 2,392 917
6 未来屋書店 36,693 10.0 756 164
7 フタバ図書 35,110 3.9 547 69
8 三省堂書店 28,543 2.0 144 35
9 トップカルチャー(蔦屋書店、峰弥書店、TSUTAYA) 28,503 5.1 639 63
10 三洋堂書店 28,497 4.0 460 90
11 ヴレッジヴァンガードコーポレーション 26,859 18.5 3,130 261
12 カルチェ・イケダ(くまざわ書店) 23,718 ▲1.2 87
13 リブロ(ロゴス、mio mio) 22,299 ▲1.8 65
14 精文堂書店 18,658 5.6 203 47
15 文真堂書店 16,860 ▲3.8 ▲342 54
16 あおい書店 15,678 ▲1.2 257 47
17 オー・エンターテイメント(WAY) 14,601 ▲3.5 188 43
18 ブックエース 13,957 ▲3.8 35
19 キクヤ図書販売 13,731 2.5 31
20 京王書籍販売 12,455 5.3 102 37
21 アシーネ 10,101 ▲5.7 90
22 勝木書店 9,393 4.1 9 27
23 明屋書店 8,574 ▲0.7 32
24 戸田書店 8,500 ▲8.0 ▲126 49
25 積文館書店 7,697 ▲2.8 45 25
26 うつのみや 3,839 0.4 7
27 福岡金文堂 3,772 2.7 23 19
28 くまざわ 3,678 2.7 12

[ 07年度のランキングも『出版状況クロニクル』に掲載したが、昨年は32位まであった。しかし今年は28位までで、4店が抜けていることになる。それらは文教堂GHD、アバンティブックセンター、よむよむ、加登屋の4社である。よむよむはリブロとの統合で理由も明らかだが、文教堂GHD、アバンティブックセンター、加登屋は「専門店調査」に回答を寄せていないために、ランキングから姿を消してしまっているのだろう。とりわけ文教堂GHDは07年には第4位で、08年も売上高512億円からすれば、ランキングは変わっていないのに、5年連続減収、2年続きの赤字決算、取次や出版社による第三社割当増資などが絡み、回答を辞退したということなのか。上場会社らしからぬ処置のように映るし、新たな株主たちにとっても不可解に思われるにちがいない。
このランキングの上位5社はずっと紀伊国屋、丸善、有隣堂、文教堂、ジュンク堂で占められてきたが、文教堂の不在は実質的に5強の時代の終わりを告げているのだろう。
ちなみに経常利益率ランキングを示せば、ブックオフ、ヴィレッジヴァンガード、トップカルチャー、未来屋書店、あおい書店となっている ]

2.  出版業界、及び関連各社の株価も半年毎に追跡してきたので、それもリストアップしておく。

  2008年1月10日 2008年7月10日 2009年1月16日 2009年7月10日
ゲオ 1,840 1,040 666 727
ブックオフ 624 889 844 1,104
トップカルチャー 431 378 277 360
丸善 122 100 67 91
学研 244 279 134 181
ゼンリン 3,610 1,756 889 1,354
昭文社 833 690 413 642
角川GHD 2,975 2,270 1,679 2,055
インプレス 15,550 18,870 115 188
CCC 519 530 874 798
ベネッセ 4,540 4,500 3,850 4,340
まんだらけ 5,590 3,750 2,452 994
三洋堂 859 1,020 1,150 1,250
すみや 109 94 43 134
文教堂GHD 460 401 363 343
新星堂 82 91 98 89
テイツー 9,400 7,900 4,970 5,270
幻冬舎 2,710 1,910 1,428 1,460
中央経済社 590 491 325 350

[ 総じて株価は08年1月期と比べると、下落している。その中でもまんだらけは2年足らずの間に5分の1以下になり、コミック古書のブームの終わりと新刊コミック売上の翳りを暗示しているのかもしれない。それに比べ、ブックオフは1000円を超え、DNPなどによる買収効果が株価に投影され、何とも皮肉さを感じさせる。
丸善はTRCと統合し、再上場を予定しているが、出版流通システムの改革を経ずして再上場しても、市場の評価は得られるものなのだろうか ]

3.  鳥取の米子書店が民事再生法を申請、負債は7億7000万円。1933年創業の老舗書店で、小中高校、及び大学の教科書などの特約店だったが、80年代の16億円の売上高に対して、08年は4億円まで落ちこみ、今回の処置に及んだとされる

[ 本クロニクル13で、小樽の老舗の丸文書店の自己破産を伝えたが、こちらも1926年創業で、米子書店とほぼ同時期に始まっている。これらの老舗書店の自己破産や民事再生法申請は、近代出版流通システムの終焉の象徴であろう。米子書店の場合、教科書を手広く扱っていたことから、鳥取の教科書会社とその販売への影響もあると思われる。
また金沢のリブロも撤退し、これで人口45万人の北陸一の都市の中心から大書店が消えてしまうという。これも郊外ショッピングセンターとの競合によるのだろう ]

4.  出版科学研究所によれば、5月の書籍雑誌推定販売金額は前年同月比7.5%減で、今年最大の落ちこみである。ただし稼働日が1日少ないことも要因となっている。
内訳は書籍5.1%減、雑誌9.2%減。5月には村上春樹の『1Q84』48万部、山崎豊子の『運命の人』10万部も刊行されたが、これらがなければ、さらにマイナスになっていただろう。
書籍返品率は43.3%、雑誌は40.5%で、いずれも前年をオーバーし、ともに上昇傾向にある。

[ 書籍雑誌の売上不振に加えて、書店の決算期が迫っていることもあって、金融返品も上乗せされ、6月は異常な高返品率となっているようだ。返品が前年の数倍に及んでいる出版社も多くあるという。またこの返品率の上昇は書店の閉店がハイピッチで進んでいることの投影だと思われる ]

5.  村上春樹の『1Q84』が5月29日発売以来、異例の増刷を重ねて各15刷となり、7月6日に1、2巻合計で、200万部に到達。

[ しかしすでに7月に入ってから、書店では売れ行きが止まっている印象を受ける。中小書店にも行き渡って平積みが見られ、しかもその山は低くなっていない。すでに過剰在庫になっていないだろうか。それにブックオフやゲオでも売られ始めていて、ゲオの買取価格は600円と公表されている。またアマゾンのマーケットプレイスでも、各50冊ほどが売られている。異例のベストセラーに水を差すようだが、返品のことを心配してしまう。
少し前になるが、95年に飛鳥新社の元営業部長内山幹雄が書いた『「磯野家」のあとしまつ――傷だらけのミリオンセラー』(こーりん社)という本があり、そこで営業部長の見聞によるベストセラーの返品のことが書かれていた。
彼によれば、朝日出版社の宮沢りえヌード写真集『サンタフェ』180万部の返品は80万から90万部、講談社の『窓ぎわのトットちゃん』600万部の返品が180万から200万部と推定され、『磯野家の謎』195万部はほぼ完売したが、続編の『磯野家の謎 おかわり』は70万部で返品20万部だったという。
まだこれらの時代にはブックオフもゲオも現在のような全国チェーンとして本格的に稼働していなかった。だからリサイクルの規模が異なっていても、これだけの返品が生じていたことになる。それらを考慮すれば、『1Q84』にしても、一方で大量返品に、もう一方で大量リサイクルとダブルパンチを喰らいかねないような気がする。
それにつけても、このような絶好の商品と絶好の機会を得たにもかかわらず、新潮社はどうして低正味買切制を導入しなかったのだろうか。筑摩書房などの「35ブックス」の動向は承知していたであろうし、取次もまた魅力ある商品の買切制は諸手を挙げて歓迎したはずだ。そして低正味買切制のメリットとデメリット、書店市場の従来と異なる反応、読者に対する流通改革のプロパガンダといった様々な波及効果、さらに新潮社と村上春樹によって推進されたとすれば、出版業界からの不協和音も少なく、また返品リスクの生じない得難い例となったかもしれないのだ。新潮社はその絶好の機会を失ってしまったことになる。残念でならない ]

6.  『文化通信』(7月6日)が文藝春秋の新社長に就任した平尾隆弘にインタビューしている。
それによれば、文春の昨年の売上高は296億円で、書籍116億円、雑誌107億円、広告60億円、その他事業10億円という内訳である。
文春の最大の問題は50代後半以上を読者とする『文藝春秋』本誌の部数が落ちた場合、それに代わるものがあるかということで、文春のシステム自体と雑誌群も本誌から枝分かれしたものであり、文春の規模からいって、ジャンルごとにクラスマガジンを作るような会社ではない。
全体の起死回生策は難しいが、雑誌、書籍、文庫の各分野にはまだ策があり、まずは経費の見直しから始め、最長5年の任期の中で、オーナー会社でないよさを生かし、「僕も任期中にやらなければならないことがあれば、たとえ恨まれても引き受けていく覚悟でいます」と平尾は語っている。

[ これはほとんど知られていないと思われるが、平尾は70年代に文春勤務のかたわらで、同人誌を刊行し、そこに連載した宮沢賢治論を78年に国文社から『宮沢賢治』として出版している。現在は砂子屋書房を主宰している田村雅之が国文社の編集長で、当時の同社の出版物は吉本隆明だけでなく、その周辺の人物、もしくは影響がうかがわれる書き手のものが多く、平尾の著作も例外ではなかった。
おそらく平尾はこのような経緯を経て、まずは鮎川信夫を文春のライターとして招いたと思われる。80年代の鮎川による『週刊文春』連載コラムの担当者が平尾であったことは、第1のコラム集『時代を読む』の「あとがき」にも明らかだ。吉本も鮎川と同様に、平尾の要請によって、文春のライターになり、それをきっかけにして著作や対談集を出すようになったのではないだろうか。
さてその吉本だが、彼は96年に深夜叢書社とタイアップし、著者、出版社として初めての「自由価格本」(出版社が価格拘束を持たない非再販本)である『学校・宗教・家族の病理』を刊行し、書店に価格決定権を委ねる本を問うたことになる。つまりここで吉本は非再販制の立場をはっきり示した。そしてまた『文藝春秋』で、現在が「第二の敗戦」状況にあるのではないかとも言っている。これらのことは平尾自身も十分に承知していることだろう。
また文春の第二出版部長の下山進は、99年にコンピュータ化と金融の変化による国際的なメディアと市場の再編を描いた力作『勝負の分かれ目』(講談社、角川文庫)を刊行している。下山にしても、現在の日本の出版業界もまた規模は異なるとはいえ、それこそ「勝負の分かれ目」同様に再編の渦中にあることをはっきり認識していよう。
さらに役員の名女川勝彦も未曾有の雑誌の凋落を身に沁みて感じているはずである。
それにブックオフの創業者坂本孝のリベート問題とブックオフの内情を記事にし、彼を退場させたのも『週刊文春』だったし、かつて文春労組は私を招き、社内で講演の場を設けている。だから私の勝手な判断によれば、文春は大手他社よりも現在の出版危機の内実と、再販制下の近代出版流通システムの行き詰まりを実感しているはずである。これらの事情に加えて、新社長の平尾だけでなく、下山や名女川という面子も揃っている訳だから、筑摩書房などの「35ブックス」に続く具体的な改革案を提出すべきではないだろうか。
これは『出版状況クロニクル』に記しておいたが、筑摩書房などと異なり、文春はトーハンや日販の大株主でもある。それでいて平尾が言うように、講談社、新潮社、小学館といったオーナー会社でもないのだから、斬新な改革案を提出できる環境におかれている。まずは『文藝春秋』の別冊というようなかたちで、「国民」に出版危機の実態を示し、出版後進国に追いやられている状況を開示し、再販制神話を広く問うことも「国民雑誌」たる『文藝春秋』に課せられた役割ではないだろうか。
平尾の「たとえ恨まれても引き受けていく覚悟でいます」という発言に本当に期待したいと思う ]

7.  本クロニクルでも、平安堂、勝木書店、田村書店、金高堂が設立した古本販売のBBA、フタバ図書の古本販売について報告してきたが、今年になって文教堂や未来屋書店、ブックスタマも参入し始めている。
その中でもブックスタマは売場面積230坪の福生店に、八王子の古書店チェーンである「ブックセンターいとう」をテナント入居させ、100坪を古本売場へと転換させた。

[ これはエンターブレインの月刊誌『コミックブーム』の巻末を見ていて気づいたのだが、「コミックビーム&ビームコミックス協力店ショップリスト」が2ページにわたって掲載されていた。そこには全国150店ほどが挙がっていて、その中にはもちろん、まんがの森、とらのあな、わんだ〜らんどもあった。ところが最多はアニメイトで、その数は39店に及んでいた。アニメイトという書店は初めて知ったが、その所在地からすると、どうもそれぞれ別の書店にインショップとして入居し、コミック専門店を形成していると見受けられる。この例から考えると、ブックスタマとブックセンターいとうの業態が成功すれば、新刊書店+インショップ古書店というアイテムも普及するかもしれない ]

8.  トーハンが『書店経営』(7月号)と『トーハン週報』(7月3日号)で、DNP及び出版大手3社のブックオフ株取得に対して、それぞれ「出版界のより良き未来のために」、「出版社3社に対する要請文」を掲載している。
とりわけ後者は「トーハン会全国代表者一同」名で、出版社に対し、ブックオフに自社の在庫を卸し、販売を行なわせないなどの5項目を要請している。

[ このふたつの要請が出されたことは、ブックオフ株式取得をめぐって、出版社、取次、書店間の信頼が崩れ、取次と書店が大手3社に対し、疑心暗鬼になっていることの証左になろう。
しかしかつてであれば、日書連と取協が一致して声明を発したはずなのに、トーハンとトーハン会だけが要請を行なったことは、日書連も取協もTSUTAYAとブックオフとの関係もあり、足並みが乱れてしまっている現在を物語っている。
本クロニクル14でも記したが、日書連傘下の書店の脱落が本格的に始まるだろう。現に日書連の副会長を務めた府中市の分梅書店も閉店したばかりだ。86年のピーク時に1万3000店を数えたが、5000店を割るのも時間の問題だと思われる ]

9.  トーハンと日本出版貿易が資本・業務提携。第三者割当増資で、トーハンが日貿の21.4%の株式を保有する筆頭株主となる。第3位は丸善、第4位は講談社。

[ 日貿は主として洋書輸入や和書輸出の取次で、トーハンや丸善の洋書流通の一部を担ってきたと考えられる。しかしアマゾンの影響もあり、今期の売上高は84億円と前年比7億円の落ちこみで、これも必然的な取次の再編の一環であろう。  その他にも従来の洋書輸入会社も苦しいと伝えられている ]

10.  CCCと毎日新聞社がTポイントで業務提携。CCCの顧客である若い世代と毎日新聞の購読者の中高年層をTポイントで結びつける試みとされているが、その実効性と意義は疑わしい気がする。

[ その一方で、CCCの取締役から角川歴彦が退任し、また角川GHDの取締役からも増田宗昭と鶴田尚正が退任。これもCCCと角川GHDが再編に向かっているということだろうか ]

11.  『マリー・クレール』休刊。広告収入の減少、事業収支の悪化がその理由とされる。

[ 『マリー・クレール』は82年に中央公論社によって創刊され、最初は実売3万部と低迷していた。だが故安原顕が編集に加わったことで、女性誌から書評や読書を特色とする文芸誌的色彩となり、それが功を奏して一気に10万部近くに伸長し、『マリー・クレール』と安原神話が確立したのが80年代後半のことだった。
その後『マリー・クレール』は99年に角川書店、03年にアンシェット婦人画報社に移ったが、発行部数は創刊当時の3万部まで落ちこんでいたようだ ]

12.  『スタジオ・ボイス』も休刊。76年創刊で、4月号で400号を迎えていたが、90年代の10万部から3、4万部まで落ちこみ、それに広告収入の減少が追い討ちをかけ、休刊になった。

[ 『スタジオ・ボイス』といえば、80年代前半の「男騒ぎする、唯一のインタビュー雑誌」と銘打っていた中綴の頃が思い出される。当時の発行所は流行通信で、奥付表記はないが、編集者は佐山一郎だったはずだ。それに猪瀬直樹のインタビュー「日本凡人伝」も連載されていた。
村上春樹が表紙写真となり、インタビューを受けている号もあった。確か結婚や経営していたピーター・キャットやデビュー当時のことを語っていて、今となっては貴重なインタビューだと思われるが、その後どこにも収録されていない。
『マリー・クレール』と『スタジオ・ボイス』が並んで売れていた時代のことを考えると、それがリブロとニューアカデミズムの時代でもあったことに気づく。双方とも自社の本や拙著を好意的に書評してくれたことを思い出す。しかしそのような時代もはるかに過ぎてしまったことを、両誌の休刊は教えてくれる ]

13.  月刊ビジネス誌『フォーブス日本版』(ぎょうせい)も休刊。93年創刊だが、やはり売上部数と広告収入の減少によるようだ。

[ 本クロニクル14で、至文堂の『国文学 解釈と鑑賞』の発売元がぎょうせいに移ったことを記したが、『フォーブス日本版』の休刊からすると、同誌の存続も厳しいかもしれない。
『マリー・クレール』『スタジオ・ボイス』『フォーブス日本版』と今月決まった休刊雑誌を続けて挙げてきた。これらがいずれも欧米の雑誌と提携、もしくはモデルとしていたことは偶然ではない。それらの先行休刊誌に『月刊プレーボーイ』があった。もはや欧米に範を仰ぐ雑誌は消費され尽くしてしまったのであり、類似雑誌の休刊はこれからもまだ続くだろう ]

14.  『外交青書』など各省庁の定期刊行物を発行する社団法人・時事画報社が事業を停止し、任意整理に入る。負債は3億円で、03年の売上高は10億円だったが、08年には5億円と半減していた。

[ 白書などの各省庁の出版物の発売元は確実な出版ビジネスと考えられていたが、ネット時代を迎え、この分野にも危機がしのび寄っている。
13で挙げたぎょうせいは、これらの他に県史なども全国的に手がけ、市町村や県庁にも食いこみ、委託制の雑誌や書籍出版社と異なる、安定した出版社と見なされていた。もっとも通常の意味の出版社に分類していいかわからないが。しかしこれらの分野にも不況は訪れているし、『フォーブス日本版』の休刊もその反映でもあろう。それからこれも官公庁を相手とする加除式出版物の版元も同様ではないだろうか ]

15.  『出版月報』6月号が「教養新書激変の10年」という特集を組んでいる。ここでいう教養新書は広義的に次の3種類をさす。
A. アカデミズム系(岩波、中公、現代新書)
B. ジャーナリスティック系(文春新書に代表される雑誌特集記事のようなテーマのもので、ビジネス新書系も入る)
C. ノンフィクション読み物系(Bほどの時事性や社会性はなく、サブカルチャーや雑学、タレントのエッセイなども含む)
この10年の教養新書の新刊点数と5年間の市場規模を以下に示す。

  新刊点数 市場規模
98 535点
00 783点
02 1,089点
04 1,018点 134億
05 160億
06 1,225点 200億
07 185億
08 1,623点 142億

[ 10年間で新刊点数は3倍となっているが、市場規模は200万部以上売れた『国家の品格』などが出た06年をピークに落ち続けている。また書店の新書棚が増えている訳ではないので、月刊誌と同じ販売システムにより、一度返品されれば、多くの点数が短期間で断裁品切れになっていると推測される。新刊点数の増加と市場規模の減少が相まって、1万部を売るのも難しい段階に入ったようで、新書から撤退する出版社もこれから出てくるだろう ]

16.  『出版状況クロニクル』で、昨年のポプラ社会長の田中治男の死に言及し、戦後出版史を含んだポプラ社社史を書くと言っていたが、残念なことに実現しなかったと記した。その代わりに、田中のポプラ社前史とでもいえる『わが戦記――ある一兵卒の回想――』がポプラ社から出された。

[ この戦記にはナショナリズムを昂揚させるような勇ましい戦いは片鱗も見られず、太平洋戦争下の「貧しい兵器、貧しい服装、貧しい食糧、そして貧しい戦術」がひたすら描かれている。これを読んで、あらためて塩澤実信の『出版社大全』の中の「ポプラ社――子どもと伸びる喜び」に目を通すと、田中が戦地から生還し、児童書のポプラ社を興した気持ちがわかるような気がする。そして一貫して営業の前線に立ち、取次と書店の現場に通じ、図書館や学校巡回販売も先駆け、戦後の出版業界の「生き字引的存在」としてあり続けたのも、戦争体験の記憶がずっと残っていたからだろう。
出版とはまったく異なる田中の戦記だが、その筆力ゆえに一気に読まされてしまう。これは書店新風会会報『新風』に連載されたもので、非売品だが、ポプラ社に在庫があるかぎり、入手は可能だろう ]

17.  筑摩書房の元社長である柏原成光の『本とわたしと筑摩書房』がパロル舎から刊行された。

[ ちょうど『塩澤実信・戦後出版史セレクション』の最終稿の編纂を「筑摩書房 古田晃」として終えたばかりだったので、その続編として読むことができた。
創業者古田の死に続く倒産、その混乱する社内事情、社長就任と辞職に至る経緯などがきわめて私的に語られている。その意味において、同書は筑摩書房私史として位置づけられよう。表紙に描かれ、口絵写真としても掲載されている神田小川町の旧社屋も懐かしいが、旧知の社員の名前も多く出てきて、彼らは今どうしているのかと思ってしまう。そのほとんどが筑摩書房を去ってしまったからだ。それらの事情が現在の菊池社長に至る過程で描かれている。それなりの社内権力闘争を経て、菊池が社長の座についたとわかる。社内政治はいずこも同様であって複雑で、私も故田中達治から、彼を中心とするまったく別の政権構想を聞かされたことがある。
なお筑摩私史ということで思い出したが、少年社員として入社し、営業部に長く在籍した小川正久による『僕は少年社員』(文芸社)も出されていることを付記しておく ]

18.  ある大学図書館が廃棄本を出し、自由に持ち帰っていいというので、出かけてみた。この大学は開校10年目を迎え、図書館も蔵書整理に迫られたようだ。以下はその報告である。

[ 何の期待もせずに出かけたのだが、以前からほしいと思っていた本が何種類もあり、もらってきた。それらを示す。
『平田禿木選集』(南雲堂)2冊
『日本現代演劇史』(白水社)3冊
『大惣蔵書目録と研究』(青裳堂書店)2冊
『メキシコ征服記』(岩波書店)3冊
『伊藤野枝全集』(学芸書林)2冊
定価にすると、合計で10万円を優に超える。これらをただで入手できたのはうれしいが、どうして廃棄処分になったのか疑問に思ってしまう。とりわけ『大惣蔵書目録と研究』は江戸時代の最大の貸本屋の蔵書リストと研究で、「日本書誌学大系」シリーズの2冊である。発行部数は数百部だと聞いている。だから貴重な資料なのだ。廃棄処分となったのは貸出利用されていないことだとしか考えられない。それが廃棄理由になっているとしたら、大学図書館の現在も問われなければならないだろう。
常々公共図書館の選書について批判してきたが、これからは廃棄本についても批判する必要があると思われる。そういえば、かつて自社(パピルス)の本が公共図書館から全冊消えてしまったことがあった。これも貸出回転率が悪いために廃棄処分されたのかもしれない ]

19.  本クロニクル12で、辰巳ヨシヒロの『劇画漂流』を紹介し、大阪マンガ出版界の実態を活写した戦後劇画史だと位置づけておいたが、続けて同じ青林工芸舎から松本正彦の『劇画バカたち !! 』が刊行された。

[ 松本は辰巳の盟友で、これは『劇画漂流』に先立つ16年前に『ビッグコミック増刊」に連載されたものの初単行本化である。
同様に戦後劇画史の草創期を描いているが、『劇画バカたち !! 』は日の丸文庫の『影』の刊行、日の丸文庫の倒産によって、名古屋のセントラル文庫から『街』が創刊されていく経緯をメインに据えたことで、最近の『影・街』(小学館クリエイティブ)の復刻がさらにリアルな資料として迫ってくる。
 そして当時の貸本屋や貸本出版社の実態を詳細に描き、冒頭の場面は昭和30年代の大阪の貸本屋店内の光景から始まり、次のようなネームがイントロダクションの役目を果している。
「これは『劇画』創造に青春を賭けた、多くの若者達の苦難と歓びと、はたまた哀しき物語である。
無数にあった赤本マンガ出版社も、ようやくなりをひそめ、世は貸本屋全盛時代をむかえようとしていた。」
劇画出版史として必読のコミックであろう ]

20.  インプレスの調査によれば、08年電子書籍市場は464億円で、前年比31%増。パソコン向けは62億で、前年比14%減となり、02年度調査以来、初めての減少、携帯向けは42%増の402億円で、その主力はコミックだが、全電子書籍の86%を占めている。
今夏、電通が携帯電話向け電子雑誌有料配信サービス「MAGASTORE(マガストア)」を開始し、雑誌分野での電子配信市場の確立をめざす。コンテンツは講談社、小学館、新潮社など20社が提供。
また紀伊国屋書店が図書館向け電子書籍サービス「Net Library」プロジェクトを発表。凸版印刷と共同で電子化、販売。和書5000タイトルで、大学図書館400館を対象に年商10億が目標。

[ 一方でアメリカの電子書籍市場は、アマゾンの電子書籍専用端末・キンドルが花形となっている。『ニューズウィーク日本版』(6・24)の「アマゾンは出版業界を殺すのか」が伝えているところによれば、08年にキンドルは50万台以上売れ、10年には10億ドル規模のビジネスになるとされている。日本での発売はまだ未定だが、キンドルが加わった場合、日本の電子書籍市場はどのように変容するのだろうか ]

21.  朝日新聞社の月刊誌『Journalism』6月号が『出版サバイバル』という特集を組んでいる。再販問題にまったく言及しない羊頭狗肉的な特集だが、アマゾンに対する長いインタビュー「『日本一』のアマゾンが提案する新しい本の売り方」が掲載され、渡辺一文バイスプレジデント・メディア事業部門部長が答えている。これだけまとまったものは初めてであろうし、同誌が注文雑誌で、ほとんど読者の目にふれていないと思われるので、要約紹介してみる。
*昨年末時点の全世界の売上は約192億ドル、日本円にすると2兆円。
*イギリス、フランス、ドイツ、日本、中国の5カ国で、合計約94億ドル、9000億円。日本の売上は2兆円の10%以上。
*昨年11月の月間来訪者数(ユニークユーザー)は1400万人、12月時点の1年間の実際の買物客(アクティブ・カスタマー)は1000万人。今年3月には来訪者は1800万人近くに増えている。
*日本はアメリカに次ぐ規模に成長。
*出版物を見ると、返品率は業界平均よりもはるかに低い。
*出版社との直取引の「e託販売サービス」は1140社で、4万点。取引条件は税込価格の60%掛で、60日目に現金払い。
*「なか見!検索」できる和書出版社は1160社で、8万点。
*ネットだけで買う人はわずか2%で、45%はネットで買っていない。
*サイトアクセスは夜の8時から3時までが多く、10時がピーク。
*キンドルは早く出したいが、日本では電子書籍の出版インフラがまだできていないのが課題。つまり電子出版のベースとなるフォーマットが出版社に浸透していない。

[ 以前にくらべて、ここまで公開するようになったのはアマゾンが日本市場に対して、揺るぎない地位を占めたという自信の表れなのであろうか。
08年全米小売業番付によれば、アマゾンは売上高191億6600万ドルで、前年25位から19位。前年比29.2%増、純利益6億4500万ドルとういうことになる。純利益はアメリカ小売業でも群を抜いている。30位までの番付が『日経MJ』(7月17日)に掲載されている。
つまり売上高だけを見ても、アマゾンは日本の昨年の出版業界全体の売上高2兆177億円に匹敵する売上高を持つに至ったのである ]

22.  さてそのアマゾンだが、同じく『朝日新聞』(7月5日)が一面ニュースで伝えたところによれば、アマゾン関連会社で、アメリカ以外の各国事業総括本社機能を持つ「アマゾン・ドット・コム・インターナショナル・セールス」が、東京国税局から140億円の追徴課税処分を受けていたことが明らかになった。アマゾン側はアメリカに納税しているので、日本側の指摘を不服として、日米2国間協議を申請、双方の税務当局間で協議中とされる。
アマゾン関連会社はアマゾンジャパンやアマゾンジャパン・ロジスティクスに販売や物流業務を委託し、コミッションを払い、それ以外の中枢機能はアメリカ側にある。これは問屋商法と呼ばれ、進出先の現地法人には販売などの一部の業務に限定させ、様々な管理部門を本国に集中させ、コスト削減と利益の最大化を図るもので、アメリカ系多国籍企業が採用しているビジネススキームとされている。
この報道によって、アマゾンが日本での売上から得た所得を、日本で申告していないことが浮かび上がった。

[ これまでのアマゾンの秘密主義の理由も明らかになったと言えるだろう。例えば、最近でも流対協の金岩宏二が「アマゾン市川塩浜倉庫見学記」(『出版ニュース』(6月中旬号)において、アマゾンに対する様々な質疑応答で、秘密主義の一端を示しているが、その根幹に日本での売上所得申告をしていないことがあったと判断されても仕方がないだろう。
アマゾンは日本以外の国でも税金トラブルを抱えているようで、このサイトがアメリカの08年「年次報告書」を引用し、そのことを書いている。
またこちらではアマゾンに抗する楽天の動きも伝えている。

この報道を受けて、アマゾンはどのような対応をとるだろうか。
私はアマゾンによる日本の出版業界の占領をずっと指摘してきたが、この事実が明らかにされたことで、その占領の内実を知らしめたと言えよう ]

つづきはこちら。

小田光雄の著書

出版業界の危機と社会構造
出版業界の危機と社会構造
出版社と書店はいかにして消えてゆくか
出版社と書店は
いかにして消えていくか
ブックオフと出版業界
ブックオフと出版業界
ブックオフと出版業界
古本探究
ブックオフと出版業界
出版状況クロニクル
ブックオフと出版業界
古雑誌探究
古本探求II
古本探求II

Copyright (c) 2008 Ronso sha All Rights Reserved