論創社
サイトマップ

出版状況クロニクル 22 (2010年1月26日〜2010年2月25日)

小田光雄


これは先日、東京古書組合での講演でも話してきたし、4月末に刊行予定の『出版状況クロニクルII』でも詳細に論じるつもりであるが、出版業界は09年から確実に新しい段階に入っている。  私見によれば、戦後の出版業界は1945年から70年代半ばまでが第1期、70年代後半から08年までが第2期、そして09年から第3期を迎えていると思われる。  第1期は高度成長、第2期は前半が構造変化と低成長、後半が衰退、第3期は解体と再編とに分けられるだろう。ちょうど第1期と第2期はそれぞれ30年のスパンがあったが、第3期は5年と推測してもいいかもしれない。すでに1年が過ぎ、2年目に入り、解体と再編は加速して進んでいくだろう。  その過程で、私たちは必然的にサバイバルしていけるかどうかという局面に追いやられていく。だがその局面まで、それなりの覚悟を持って出版状況クロニクルを書き続けるつもりだ。

>>  バックナンバー

1.   09年の出版物売上高が2兆円を割ったことは本クロニクルでも既述してきた。だが今期はその20年間にわたる売上高の推移をまだ一度も掲載していないので、まずそれを示しておく。


出版物推定販売金額 (億円)
書籍 雑誌 合計
販売額 前年比 販売額 前年比 販売額 前年比
88 8,259 3.3 11,430 5.7 19,689 4.7
89 8,484 2.7 11,916 4.2 20,399 3.6
90 8,660 2.1 12,638 6.1 21,299 4.4
91 9,444 9.1 13,341 5.6 22,785 7
92 9,637 2 13,923 4.4 23,560 3.4
93 10,034 4.1 14,866 6.8 24,900 5.7
94 10,376 3.4 15,050 1.2 25,426 2.1
95 10,470 0.9 15,427 2.5 25,897 1.9
96 10,931 4.4 15,633 1.3 26,564 2.6
97 10,730 ▲1.8 15,644 0.1 26,374 ▲0.7
98 10,100 ▲5.9 15,315 ▲2.1 25,415 ▲3.6
99 9,936 ▲1.6 14,672 ▲4.2 24,607 ▲3.2
00 9,706 ▲2.3 14,261 ▲2.8 23,966 ▲2.6
01 9,456 ▲2.6 13,794 ▲3.3 23,250 ▲3.0
02 9,490 0.4 13,616 ▲1.3 23,105 ▲0.6
03 9,056 ▲4.6 13,222 ▲2.9 22,278 ▲3.6
04 9,429 4.1 12,998 ▲1.7 22,428 0.7
05 9,197 ▲2.5 12,767 ▲1.8 21,964 ▲2.1
06 9,326 1.4 12,200 ▲4.4 21,525 ▲2.0
07 9,026 ▲3.2 11,827 ▲3.1 20,853 ▲3.1
08 8,878 ▲1.6 11,299 ▲4.5 20,177 ▲3.2
09 8,492 ▲4.4 10,864 ▲3.9 19,356 ▲4.1

[ これを出版文化GDPの推移と見なせば、只事ではない出版文化の失墜と凋落に見舞われていることが歴然となる。欧米の出版業界と比較しても、これほどの落ちこみを示しているのは日本だけなのである。
 合計がピークだった96年に比べれば、書籍は2439億円、雑誌は4769億円、合計で7208億円の減少である。すさまじい落ちこみというしかないし、戦後の再販委託制による出版流通システムの崩壊をあからさまに告知している。
 失われた10数年と言い続けてきたが、何の抜本的改革もなされぬまま、解体と再編の段階を迎えてしまったのである ]

2.   同時期の書籍新刊点数の推移も掲載しておく。これも1の書籍売上高とパラレルであるから、この間に何が起きていたか、よくわかるだろう。


  発行点数
88 37,064
89 38,057
90 38,680
91 39,996
92 42,257
93 45,799
94 48,824
95 61,302
96 63,014
97 65,438
98 65,513
99 65,026
00 67,522
01 69,003
02 72,055
03 72,608
04 74,587
05 76,528
06 77,722
07 77,417
08 76,322
09 78,555

[ 88年の書籍売上高は8259億円であるから、09年とほとんど変わらない。だが新刊点数は37064点から78555点と倍以上になっている。
 この売上と生産のギャップは異常であるし、再販委託制下の新刊バブルとよべるだろう。しかもさらに異常なのは売上が落ち続けているにもかかわらず、新刊バブルが止まっていないのは、出版社の自転車操業的新刊発行が年を追うごとに深刻になっていることの証明となろう  ]

3.   同時期の雑誌売上高の内訳も示しておこう。


(億円)

雑誌 対前年
増加率
月刊誌 対前年
増加率
週刊誌 対前年
増加率
88 11,430 8,360 3,071
89 11,916 4.2 8,555 2.3 3,360 9.4
90 12,638 6.1 9,069 6 3,569 6.2
91 13,341 5.6 9,524 5 3,817 6.9
92 13,923 4.4 10,066 5.7 3,857 1.1
93 14,866 6.8 10,828 7.6 4,038 4.7
94 15,050 1.2 11,093 2.5 3,957 ▲2.0
95 15,427 2.5 11,352 2.3 4,075 3
96 15,633 1.3 11,692 3 3,940 ▲3.3
97 15,644 0.1 11,699 0.1 3,945 0.1
98 15,315 ▲2.1 11,415 ▲2.4 3,900 ▲1.1
99 14,672 ▲4.2 10,965 ▲3.9 3,707 ▲5.0
00 14,261 ▲2.8 10,736 ▲2.1 3,524 ▲4.9
01 13,794 ▲3.3 10,375 ▲3.4 3,419 ▲3.0
02 13,616 ▲1.3 10,194 ▲1.7 3,422 0.1
03 13,222 ▲2.9 9,984 ▲2.1 3,239 ▲5.3
04 12,998 ▲1.7 9,919 ▲0.6 3,079 ▲4.9
05 12,767 ▲1.8 9,905 ▲0.1 2,862 ▲7.1
06 12,200 ▲4.4 9,523 ▲3.9 2,677 ▲6.5
07 11,827 ▲3.1 9,130 ▲4.1 2,698 0.8
08 11,299 ▲4.5 8,722 ▲4.5 2,577 ▲4.5
09 10,864 ▲3.9 8,445 ▲3.2 2,419 ▲6.1

[ 09年は月刊誌、週刊誌合計の売上高は3.9%のマイナスで、08年の4.5%よりマイナス幅が減少している。だがそれは雑誌定価の平均3.3%の上昇に支えられていて、販売部数は6.9%減と過去最大の落ち込みになっている。09年は休刊も相次ぎ、広告収入の激減が雑誌全体に大きな影を落としている。
 日本の近代出版流通システムは雑誌をベースにして構築されたものであるから、雑誌の誕生から始まり、雑誌の衰退によって終わるという局面へと入っている。
 雑誌の危機は10年にさらに加速していくだろう。週刊誌のみならず、総合月刊誌の返品率の急上昇が伝えられている ]

4.   アルメディアによる09年の書店の新規出店、転廃業、撤退による閉店のデータが出された。


2009年 年間出店・閉店状況  (面積:坪)
新規店 総面積 平均面積 閉店 総面積 平均面積
1 8 1,516 190 76 4,120 62
2 15 3,084 206 120 11,185 106
3 24 5,798 242 92 6,889 83
4 52 11372 219 91 5,045 63
5 14 2,768 198 91 6,945 89
6 20 4,821 241 85 6,134 86
7 26 5,694 219 44 3,871 90
8 11 1,703 155 77 5,691 86
9 31 5,296 171 82 5,768 79
10 30 5,255 175 75 7,397 107
11 34 7,008 206 53 3,535 66
12 21 2,576 123 65 3,503 66
合計 286 56,891 199 951 69,891 83
前年実績 407 83,994 206 1,115 72,280 73
増減 ▲121 ▲27,103 ▲7 ▲164 ▲2,389 11

[ 出店の減少は不況によるチェーン店の出店抑制策とショッピングセンター内出店の減速によるもので、大規模店も減っている。前年比30%減という新規出店の急激な落ちこみはこれまでにない現象で、これは今年も続くと思われる。
 閉店は05年以来の1000店を割ったが、総面積を比較すればわかるように、閉店による減少は明らかで、書店市場が店数のみならず、床面積も含めて収縮し始めているのだろう。
 70年代の書店数が2万3000店だったことを考えていると、小学校数がほぼ同じであったことに気づく。そればかりか、郵便局も新聞店も同じような数である。だからそれらの数の一致は偶然ではない。この同様の数の4つのインフラが、教育、本と雑誌と新聞という活字メディア、それらの販売、郵送、配達のネットワークを形成していたとわかる。
 書店に限って言えば、今年は1万5000店を割るかもしれない。いかにネット時代を迎えているとしても、書店数から考えて、多くの人々が書店にもはやアクセスできない環境の中で暮らしている。書店の激減はそのことを告げていよう  ]

5.   書店の新規出店の減少とリンクしているのは、これまでの複合型書店の柱であったCD・DVDのセル、レンタルの不振であろう。1で示したように、減少し続けてきた出版物売上高をフォローしてきたのはそれらの存在で、取次において書籍、雑誌に次ぐ第3商品として分類されてきた。03年から05年にかけては特にDVDはバブル的活況を呈していたが、急激に落ちこみ始めている。
 今回は表が多くて恐縮であるが、『キネマ旬報』(2月下旬号)にDVDのレンタル、セル市場の推移が示されているので、それを表化してみる。


DVD年間売上高推移 (億円)
レンタル セル
99 1,071 983
00 1,038 1,506
01 998 1,794
02 1,042 2,102
03 1,053 2,377
04 1,144 2,585
05 1,033 2,655
06 1,058 2,227
07 1,066 2,090
08 997 1,847
09 858 1,568

(レンタルの09年は1〜11月分)

[ 09年のレンタル市場の落ちこみもさることながら、セル市場は05年のピーク時の2655億円に比べて、09年は1568億円で、何と4割も落ちこんでいる。洋画旧作の廉価版の発売に始まるバブル崩壊が原因とされているが、回復は難しいだろう。ブルーレイ市場はまだ200億円ほどで、こちらがDVD市場のような規模に成長するだろうか。
 またレンタル市場はゲオが仕掛けた100円レンタルによる影響で、その価格が市場を席巻し、市場全体がデフレ化しつつある。そのため、こちらのDVD売上もさらに悪化していくだろう。
 CD状況については『週刊東洋経済』(2/13)の「カンパニー&ビジネス」欄が、「頼みの有料配信も頭打ち それでも神風待つ音楽業界」として、CD生産額が縮小に転じて10年、ピーク時の6000億円の半減以下となっている状況をレポートしている。明らかに配信へ移行しつつある。
 そこに示された数字にも驚いてしまった。日本レコード商業組合加盟店数は92年3200店から09年は820店で、なんと74%減とされている。そういえば、商店街がまだ健在だった時代にはどこでもレコード店があったものだ。それらの大手チェーンが新星堂やすみやだった。だが前者は大和証券ファンド傘下で再建中、後者はCCCの完全子会社となり、上場廃止に至っている。書店とレコード店のたどった道も似ているとしか言いようがない ]

6.   大日本印刷傘下の丸善と図書館流通センターが共同持株会社CHIグループ株式会社を設立。「CHI」は「知」のローマ字表記で、「知と生成と流通に革新をもたらす企業集団」を意味する。初年度売上高1300億円、純利益6億4000万円を見こむ。
 資本金は30億円で、主要株主はDNP52.28%、トーハン6.14%、CHIグループ従業員持株会5.34%、役員構成はTRCの石井昭が会長、丸善の小城武彦が社長、DNPの常務西村達也が副会長。同時東京1部に上場し、丸善は上場廃止。

[ DNP主導による出版業界の再編として、大きく現実化したのがCHIグループということになるし、3年後にはジュンク堂も加わる予定とされている。
 しかし第2位の株主にもあたるトーハンの動きにも注意すべきだろう。本クロニクルでも言及してきたが、トーハンは文教堂や三洋堂の大株主であり、また本クロニクル17で既述したように、文教堂の筆頭株主はジュンク堂となった。このような再編をめぐる状況の中での株式の持ち合いとトーハンのこれからの動きはどうなっていくのだろうか  ]

7.  その文教堂の嶋崎富士雄社長が『新文化』(1月28日)の「V字回復へ手応えあり!」と題するインタビューに応じている。それを要約してみる。

*昨年度は16億円の純損失、6年連続の減収、3年連続赤字を計上したが、リストラ、株式増資などによって、9月からの今期第1四半期は黒字転換、210億あった有利子負債も150億円まで圧縮。
*150坪前後の中規模・郊外型店を中心とし多店舗展開を行なってきた。だが04年以降、それらの店舗が時代と客のニーズに合わなくなり、急激に悪化した。
*悪化した店舗の場合、150坪で7万冊、8000万から9000万円の在庫があっても、月商1000万から1300万で、利益が出ないままの営業を続けていた。
*それらの郊外店は大半をリストラしたので、郊外店は全チェーンの1割を切り、文教堂はもはや郊外型チェーンではなくなっている。
*これからはポイント、リサイクル事業の導入、ゲオとの提携による複合店をさらに考えていきたい。
*筆頭株主のジュンク堂とできることは何でも一緒にやっていきたいし、CHIグループへの参加は未定だが、商品政策で丸善やTRCと情報を共有したい。

[ 有利子負債は圧縮されたといっても、売上も減少しているので、その割合はあまり変わっていない。またショッピングセンター内店舗は好調だが、都市型駅前立地の大型店はよくないと言っているので、厳しい状況から完全に脱却することは容易ではないだろう。株式の関係からしても再編は必至のように思われる。それにしてもジュンク堂への創業者の株式売却金は、文教堂の資本増強にまったく組みこまれなかったのだろうか ]

8.   DNP絡みが続いたので、ブックオフについても続けて書いておこう。これほどブックオフがマスコミに露出するのは、創業から上場までの時期以来のように映る。
 店長候補を含む新入社員200人の採用計画、社員の退職抑制のための信託型従業員持ち株制度の導入、09年12月期において、本と他の商品の売上比率が半々になったこと、出版社と共存したいというアナウンスメント、Tポイントからの脱退、関東を中心とする4店のスーパーバザー出店などだ。

[ 明らかにDNP入りしたことで、この機会を利用してのプロパガンダということになるだろう。それまで社長の佐藤弘志はほとんどマスコミに顔も出していなかったが、すっかりおなじみになってしまった。
 ブックオフは10年3月期売上高を前年比15%増の700億円と見こんでいるようだが、これだけマスコミも宣伝に一役買えば、それも実現してしまうかもしれない ]

9.   ブックオフの盟友で大株主のTSUTAYA=CCCも、5で述べたCD・DVDのセルやレンタルの不振を受け、様々に変わりつつあるようだ。
 東京ミッドタウンの既存店の生活提案型店舗への改装、これは1万アイテムの本と雑貨を組み合わせる試みである。またブックオフなどのTカードからの撤退、教育事業を展開するデジタルハリウッドの株式の売却など、こちらも動きがあわただしい。

[ 『サイゾー』3月号が「儲かる会社は裏がヤバイ」特集で、CCCのTポイントに言及し、本業のTSUTAYA直営事業は11億円の営業損失だが、Tポイント事業は17億円の営業利益を出していて、CCCの大切な「虎の子」だと書いている。ただし加入費用は高く、ブックオフも年間7〜8億円のコストを維持できなかったとされる。
 この国内最大のTポイントカードに対抗して、3月に三菱商事子会社ロイヤリティマーケティングが共通ポイントサービス、「Ponta」を開始する。07年にTカードを脱退したローソン、TSUTAYAのライバルのゲオがただちに加盟することになっているから、カード事業も激戦となっていくのだろう。これらの動きも出版業界と無縁ではないはずである  ]

10.  こちらは日販だが、1月から始めた「総量規制」が大きな波紋と問題を投げかけている。日販は書店売上状況に合わせるために、5%の削減を目標として「総量規制」を実施するに至った。
 そのことで新刊委託の仕入部数が3割から7割減という事態が生じ、仕入窓口の説明不足もあって、出版社からは怒りと不満の声が上がり、書店からも配本が少なくなり、改善要求が出されている。これは3月までの暫定措置とされている。

[ これは出版社の資金繰りにかかわる重大な問題であり、事前によく説明を受けていなかったある大手出版社の社長がどなりこみに近い抗議を示したという。
 「総量規制」なる言葉はそもそも金融用語からきていて、銀行が不動産業界などに融資の「総量規制」を実施して、バブル崩壊に至った事実が思い出される。
 取次のこのような仕入れ規制もその金融機能からすれば、長期の場合、銀行と同様のリアクションが起きることは自明である。すなわち新刊バブルの崩壊、それにつながる出版社の倒産という事態を招く。
 ただこのような処置を取らざるをえなくなったことは、高返品率問題があるにしても、書店市場の金づまりが第一の原因だと思われる。暫定処置にしても、トーハンも「総量規制」を実施することも覚悟しておくべきかもしれない ]

11.  一方でゲオは本クロニクル21で既述したセカンドストリートを完全子会社化し、上場廃止。両社による総合リサイクル事業への推進の一環とされる。

[ この動きが提携先のトーハンや文教堂にも及んでいくだろう。ただブックオフが本の売上比率が創業時の7割から5割まで落ちてきたように、これからのリサイクル事業はあらゆる分野の商品を取りこんでいくことになろう。現在の新刊書店の古本販売も否応なくそのような方向に進んでいくかもしれない。
 モノ余りとデフレの時代を迎えて、他業種から参入も盛んであり、ヤマダ電機も子会社でリサイクル事業を手がけ始めている ]

12.   『週刊東洋経済』(2/20)が「新聞・テレビ断末魔」という特集を組んでいる。昨年1月にも「テレビ・新聞陥落」特集を出しているが、それから1年たって、状況はサブタイトルにあるように「再生か破滅か」という段階にまで悪化している。テレビはともかく、新聞は出版の最も近傍に位置し、またどの新聞社も出版局を持っていることもあり、その「断末魔」の状況を要約してみる。

*08年の新聞広告は前年比12.5%減で、09年以降も2ケタペースでマイナスが続いている。
*新聞発行部数も03年に5300万部を割り、09年には初めて100万部の減少を見たように急減している。
*朝日新聞は3期連続赤字、毎日新聞社、産経新聞社も赤字、日本経済新聞社も戦後初の赤字に転落し、黒字は読売新聞だけとなっている。
*とりわけ朝日新聞は08年移行、毎年100億円単位で広告収入がへり、他社より落ちこみが激しい。
*新聞社は高速輪転機などの印刷設備、販売店を維持するために固定費負担が高く、それを削ることは容易でない。
*その代わりに社員のリストラが進み、この10年で6万人近くいたのが1万人減少し、5万人を割り、社会の木鐸と新聞記者がリスペクトされていた時代も急速に終わりつつある。

[ ネット時代を背景にした新聞危機は世界共通で、デジタル有料化への道が模索されている。日本の場合、これから本格的に各社の電子ペーパー端末が発売されるので、雑誌の有料配信実験も始まっているし、激動の年になるだろう。すでに朝日新聞が大分と佐賀の両県で、3月で夕刊の廃止を決めている。
 新聞は出版と同時期に近代を迎えて始まり、そもそも取次も新聞を扱うことでスタートしていた。だからともに興亡の道をたどっている。それから出版業界の書店にあたる新聞店だが、かつての2万5千店が2万店を割ったようだ。新聞無購読者も2割を超えている。そしてついにネット広告は新聞広告を上回った。
 それにしてもいつも思うのは、新聞やテレビについてこのような企画が組まれることはあっても、どうして「出版断末魔」といった特集は出されないのだろうか。現在の出版状況において、それがメジャー誌の義務だとさえ思われるのに ]

13.   12の背景にある電子ペーパー、書籍をめぐるハードなどに関連して、新聞や雑誌で様々な記事が書かれ、特集が組まれている。その中でも『日経トレンディ』3月号が、クラウド、ツイッター、電子書籍までフォローしていて広く参考になる。だが電子書籍に限っていえば、『エコノミスト』(2・23)の「モバイルの覇者」特集の「iPadが暮らしを変える 電子書籍は機能の一部にすぎない」という林信行のレポートがシンプルで刺激的だ。要約してみる。

*アマゾンの「キンドル」とアップルが3月末に世界各国で発売する「iPad」が電子書籍端末市場で激突する。
*コンテンツに関してはキンドルが40万の電子書籍を揃えているのに対して、iPadは50冊以上の主要な雑誌、170以上の新聞、100万以上の電子書籍の提供が予定されていて、ペンギン、ハーパーコリンズなど大手出版社5社が味方につき、これに教科書市場に強いマグロウヒル社も加わるとされる。
*アップルの電子書籍流通販売マージンは30%、著者・出版社の取り分は70%で、価格設定権は出版社が持つ。当初アマゾンは著者・出版社の取り分を35%、インフラ手数料を65%としてきたが、iPad発表直前にアップルと同じ条件プランを新たに導入すると発表。

[ これは使ってみないとわからないが、iPadは林のレポートのタイトルにあるように、キンドルよりはるかに多様性に富み、ツイッター、病院での利用、またテレビのように様々なメディア利用も可能とされ、巨大なコンテンツ市場と見なせるようだ。私は勉強不足で、このふたつはかつてのビデオのVHSとベータのちがいかと単純に思っていたが、まったく誤解であったことを教えてくれた ]

14.  そのアマゾンだが、09年全世界売上高が2兆2000億円に達し、そのうち本、CD、DVDなどのメディア商材が52%を占めるとされている。日本のアマゾンは今年をデジタル化元年と位置づけ、出版社に電子書籍を提供する体制の整備を呼びかけている。  これは本クロニクル21で既述した日本電子書籍出版社協会の設立とパラレルな動きである。ただ電子書籍は非再販扱いで、キンドルの日本語版発売はいつでも可能だが、コンテテンツが揃わなければ意味がないので、発売は未定。

[ アマゾンとアップルの電子書籍に対するマージン体系の落差には驚くが、独占企業の立場を確立すれば、法外なマージンを要求するという好実例だろう。その意味において、両社の拮抗は著者、出版社にとっては歓迎すべきものといえる。  またこれも『サイゾー』3月号だが、アップルとアマゾンにもふれ、後者についてはアマゾン追徴課税問題をレポートしている。この問題は本クロニクル15でも取り上げておいた。だがこれまで続報は出されていなかったので、ぜひ一読されたい。この問題はどう決着がつくのであろうか ]

15.   アマゾンの日本でのライバルといえば、楽天ということになるだろう。楽天の仮想商店街「楽天市場」の09年流通総額は前年比20%増の8000億円で、出店数も同21%増の3万1831店。
 それに見合って楽天の09年決算も売上高は前年比19.4%増の2983億円、営業利益は同20.1%増の566億円。百貨店、スーパーが13年連続割れする中で、ネット通販の好調ぶりを示す。

[ 楽天が定価にかかわらず、雑誌書籍の送料を無料としたことで、アマゾンもそれに合わせざるをえなくなったという事実は、対抗企業の必要性を実感させる。楽天と取次の接近や提携の可能性もあることを視野に収めておくべきかもしれない。  それから楽天だけでなく、CHIグループもアマゾンの対抗企業となっていくのか、こちらも再編の課題のひとつであろうから  ]

16.   ランダムハウスと講談社が日本における合弁契約を解消し、両社が保有するランダムハウス講談社の全株式を同社社長に譲渡。ランダムハウス講談社は新たな社名を発表予定。  なお講談社は『アキラ』などのコミックをランダムハウスの流通販売ルートに委託しているが、それは変わらない。

[ ランダムハウス講談社は03年に日米の大出版社が50%ずつの資本金を出して設立され、単行本、ムック、文庫を刊行してきた。ベストセラーとしてアメリカ元副大統領ゴアの地球温暖化への警鐘である『不都合な真実』が知られている。  合弁契約の解消は、ランダムハウス講談社のこれまでの出版物の処理が気にかかる。これまでの例でいうと、外資系出版社の場合、西武タイムや日本ブリタニカもすべてが絶版となってしまっているからだ ]

17.  洋泉社の石井慎二が亡くなった。

[ 石井は洋泉社の社長というよりも、JICC出版局で、「別冊宝島」を創刊した編集長として、出版史に記憶されるだろう。
 08年に「別冊宝島」が1500号に達し、それを記念して『別冊宝島1500号 長くて曲がりくねった道』が出され、その巻頭に「伝説の編集者の声を聞く」というインタビューが掲載されている。
 『宝島』本誌が売れなくて、特集をまとめて一冊にすることを考え、76年に『全都市カタログ』から始まったこと、第三次産業社会、つまり高度消費社会のニーズに合わせた企画をセレクトしていったこと、活字ムック、岩波新書の若者版、知識マガジンというコンセプトの確立、ノンフィクション路線の樹立、サラリーマン、ビジネスマン向けの「業界もの」「実録もの」へ進出したことなどが語られ、とても興味深い。
 このインタビューは石井の食道癌手術後のもので、彼の最後の活字としてまとまった発言だと思われる。「別冊宝島」の功罪は多々あるにしても、戦後出版史における貴重なインタビューが残されているので、ぜひ読んでほしいと思う ]

18.   ここのところ、目立った出版社の倒産は起きていないが、帝国データバンクによれば、09年になって、印刷業の倒産が急増している。09年は過去5年で最悪となり、倒産は174社、負債総額は556億円に及んでいる。

[ やはりこれも雑誌休刊が相次いでいる出版業界の不況と広告宣伝費の減少が、印刷業界をも直撃しているようだ。  本クロニクルでも編集プロダクションや広告会社など出版関連業種の倒産を伝えてきたが、周辺企業も含めれば、出版危機は多大な難民を派生させているはずだ。今年はそれにさらに拍車がかかるだろう  ]

19.   講談社が2期連続で赤字決算となった。売上高1245億円で、前年比7.8%減、当期純損失57億円。その内訳は雑誌が同4.7%減、書籍が5.9%減、広告が25.9%減で、14年連続の減収。

[ 講談社を皮切りに大手出版社の決算が続くが、同様に赤字となるのは想像に難くない。講談社の例に見られるような広告収入の激減は各社同様で、09年雑誌広告費は3034億円となっていて、25.6%の減少である。だから講談社の減少は特別ではなく、平均的なものと考えられるからである ]

20.   今月のブログ【出版・読書メモランダム】は本クロニクルと同様に3月1日に更新される。その第1回はコミック論なので、ぜひお出かけあれ。

つづきはこちら。

小田光雄の著書

出版業界の危機と社会構造
出版業界の危機と社会構造
出版社と書店はいかにして消えてゆくか
出版社と書店は
いかにして消えていくか
ブックオフと出版業界
ブックオフと出版業界
古本探究
古本探究
出版状況クロニクル
出版状況クロニクル
古雑誌探究
古雑誌探究
古本探求II
古本探求II
古本探求III
古本探求III

Copyright (c) 2008 Ronso sha All Rights Reserved