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出版状況クロニクル 6 (2008年9月26日〜10月25日)

小田光雄


今年もあますところ二ヵ月となったが、出版業界の危機はとどまることなく深刻化し、出版社、取次、書店を問わず、様々な風評や噂が飛び交っている。本クロニクルは風評や噂を記すことを目的としていないので、それらにはふれない。
だがこのような危機的出版状況から類推すれば、敗戦後の1949年における日本出版配給株式会社(日配)の封鎖に伴う、前後数年間の出版不況と混乱、新たな取次各社の創立の時期と酷似しているように思われる。その背後にはGHQがいた。
それならば、現在の出版危機の背後にいるのは誰なのか。一方に再販委託制に基づく近代出版流通システムの終焉もあるが、アマゾン、CCC、ブックオフの存在を挙げることができよう。今月は主として、取次や角川GHDも含め、これらに言及してみる。

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1.  『週刊エコノミスト』(10月7日号)が「通販の失速」という小特集を組み、日本国内通販市場規模の推移をレポートしている。それによれば、通販市場は1980年代からのカタログ販売に加え、近年のインターネット通販やテレビ通販の普及もあり、07年まで9年連続で拡大し、4兆円近くに及んでいたが、08年は失速し、成長の限界を迎えてもいるようだ。さらにこの小特集の目玉は「通販事業者売上高トップ20」のリストを掲載し、通販新聞からの推定値とはいえ、アマゾンを売上高トップに据えていることであろう。以下にそれを示す。

  会社名 億円 前年比伸び率(%) 主力媒体、主力商品
1 アマゾン 2,200* 37.5 ネット、書籍・音楽
2 アスクル 1,891 7.6 カタログ、オフィス用品
3 千趣会 1,457 2.5 カタログ、総合
4 ニッセン 1,278 6.5 カタログ、総合
5 ミスミ 1,267 7.2 カタログ、金型部品
6 ジャパネットたかた 1,161 7.5 テレビ・チラシ、家電製品
7 ジュピターショップチャンネル 1,023 2.6 衛星・CATV、総合
8 ベルーナ 1,019 ▲7.3 カタログ、総合
9 大塚商会 825 16.0 カタログ、オフィス用品
10 デル 742* 8.5 ネット、パソコン
11 QVCジャパン 719 ▲2.0 衛星・CATV、総合
12 DHC 693* ▲1.0 広告・カタログ、化粧品・健康食品
13 セシール 660 6.3 カタログ、総合
14 フェリシモ 548 1.6 カタログ、衣料・雑貨
15 ディノス 543 ▲1.0 カタログ・テレビ、総合
16 ムトウ 525 9.9 カタログ、総合
17 オークローンマーケティング 399 75.0 カタログ、雑貨
18 オルビス 375 - 広告・カタログ、化粧品・健康食品
19 日本生活協同組合連合会 367 4.2 カタログ、総合
20 ファンケル 360* ▲5.0 広告・カタログ、化粧品・健康食品

(注)07年6月期〜08年5月期 *は通販新聞の推定値

[秘密主義ともいえるアマゾンの売上高がこのようにほぼ公表されたことは初めてではないだろうか。アマゾンが日本で本格的に創業したのは01年と見なせるから、8年足らずで2200億円とは恐るべき売上高と急成長である。しかもその伸び率は加速し続けているようだ。
この売上高のうち、書籍・雑誌のシェアがどれほどかわからないが、おそらく紀伊国屋や丸善の売上高を上回っていると思われる。またアマゾンはほとんどが返品の生じない取次兼ネット書店であると想定すれば、その全売上高はトーハン、日販に匹敵し、しかも利益率は二社の比ではないだろう。
この売上高から明らかなように、日本の出版業界が何の改革もなされず、失われた10年を過ごしてきたかたわらで、アマゾンは送料無料という実質的な再販制崩しによって、ゼロからトップに躍り出たことになる。表に示された「前年比伸び率37.5%」からして、通販業界の失速にもかかわらず、アマゾンはまだ数年間確実に成長するだろう。
その一方で、書籍のネット通販は旭屋書店が撤退、丸善がアマゾンに顧客を誘導して手数料を得るビジネスに転換し、通販サイトを閉鎖したように、淘汰が始まっている。これもまたアマゾンの独り勝ちを告げている。また千趣会、フェリシモ、日本生協連合会なども書籍を扱っていたが、そのシェアは落ちているのではないだろうか。出版部門を抱えていたDHCはそれを売却し、出版から撤退したと伝えられる]

2.  『日経MJ』(10月15日)でも08年版「eショップ・通信販売調査」が発表された。こちらはアマゾンなどが入っていない。だが130位まで掲載しているので、アマゾン以外の書籍・雑誌の通販売上高がわかる。それらを売上高順に伸び率も含め、抽出してみる。

・セブンアンドワイ 169億円 23%
・ビットウェイ(Handyコミック、BuBu) 55億円 45%
・紀伊国屋書店(ブックウェヴ) 52億円 ▲8%
・パピレス(電子書籍パピレス) 35億円 68%
・ネットオフ(eBOOK・OFF) 24億円 8%

[ビットウェイとパピレスは電子書籍の配信なので、古本のネットオフを含めてもリアルな書籍・雑誌の通販は3社で248億円であり、アマゾンのガリバーぶりが突出している。TRCのbk1、文教堂ジェイブック、楽天ブックスなどはネットオフ以下の売上高と推測され、紀伊国屋と同様に前年割れの状態にあると考えられる。セブンアンドワイの売上高と伸びは明らかに1万2千店に及ぶセブン-イレブンのインフラによっている]

3.  21世紀の出版業界はもはや20世紀の出版社・取次・書店から大きく変貌したと考えるべきで、出版社としての典型は角川GHDだろう。『会社四季報』秋号に示されたデータによれば、出版48%、映像28%、クロスメディア19%、その他5%であり、書籍・雑誌のシェアは半分以下になっている。
[キネマ旬報社が「キネ旬総研白書」として、初めて刊行した『映画ビジネスデータブック2008』は出版業界と異なる業界白書だが、映画会社を出版社、映画を出版物、シネコンを書店に当てはめると、共通する現象と問題が浮かび上がり、とても興味深い。
角川GHDの映像部門の角川映画は大映や日本ヘラルドを買収したことで知られているが、この白書によれば、邦洋大手13社のうちに数えられ、07年には日本、外国映画18本を配給し、年間興行収入25億円、新宿でのシネコンの運営、中国や韓国へのエンターテインメント事業進出が伝えられている。
またクロスメディア部門ではグーグル傘下のユーチューブと提携し、角川のアニメを始めとするコンテンツの世界的販売網を拡大しようとしている。出版部門の雑誌に関しても、情報雑誌はネット配信に向かいつつある。
したがって角川GHDは出版部門の角川書店で育成されたコンテンツをコアとし、映像、クロスメディア部門へとすでに大きく離陸している。このような視点から見れば、上場も含め、音羽グループも一ツ橋グループも遅れをとっていることは明らかである。
角川の変貌は1998年の株式上場を機としている。上場に際し、CCCの増田宗昭の個人ファンド、マスダアンドパートナーズが大株主となり、増田と日販の鶴田尚正が役員に就任した。つまり角川GHD、CCC、日販が提携したと見なせよう。付け加えれば、当時から日販も映画の投資ファンドの一角を形成している。彼らが実質的提携によってめざしたのは、本クロニクル5で言及した「エンターテインメント事業」であろう。それを暗示するようにキネ旬の白書の映画・映像業界リストには角川映画とCCCが隣接して並んでいる。そういえば、キネ旬は角川GHD傘下にあると思われていたが、USENが買収したようだ ]

4.  角川GHDの脱出版社化とパラレルに進行したのが、CCC=TSUTAYAの複合化による脱書店化である。それは雑誌、書籍、CD・ビデオレンタルの複合店をビジネスモデルとして始まり、直営、フランチャイズも含め、店舗網は1300余に及び、最大の複合書店チェーンとなり、2000年には株式上場も達成している。そしてCCCの08年売上高は2377億円に及び、CCC自体が脱出版業界化したコングロマリットを形成するに至っている。その傘下の主要グループ会社と事業内容を挙げてみる。

・TSUTAYA
「TSUTAYA」のフランチャイズ本部。

・レントラックジャパン
「TSUTAYA」店舗にメーカーから有償委託された映像ソフトを貸与し、レンタルの出来高に応じて収益を分配する「PPTシステム」を独自のビジネスモデルとして事業展開。

・ツタヤオンライン
総合エンターテイメント情報サイト「TSUTAYA online」、DVD・CDネット動画配信サービス「TSUTAYA DISCAS」、デジタルテレビ向け動画配信サービス「TSUTAYA TV」などのインターネットサービス事業。

・TSUTAYA STORESホールディングス
直営の「TSUTAYA」「ブックオフ」、及び「ヴァージン・メガストア」や「スターバックスコーヒー」などの運営。

・Tカード&マーケティング
本クロニクル5でも言及したTカード事業。

・CCCライフスタイル総合研究所
CCCグループ内のマーケティングソリューション事業における中間マネジメント会社。

・アイ・エム・ジェイ
企業のメディア戦略をトータルに支援するインタラクティブ・エージェンシー。博報堂がCCCから株式を取得し、保有株式は29%に及び、博報堂の持分法適用関連会社となる模様。CCCの持株比率は32%となり、アイ・エム・ジェイはCCCコミュニケーションズの株式51%をTSUTAYAに譲渡する予定。

・デジタルハリウッド
IT・デジタルコンテンツ分野に特化した専門学校などの運営とインキュベーションの展開。

・デジタルスケープ
デジタルクリエーターとITエンジニアに特化した人材派遣・紹介事業。

・CCCキャスティング
CCCグループ各社の新卒採用、教育研究、キャリアコンサルティング事業。

・CCCコミュニケーションズ
インターネットによる広告マーケティング事業、TSUTAYAのアセットを活用するプロモーション事業データベースマーケティング。

[これまで本クロニクルでCCCの関連企業として、MPD、ブックオフ、トップカルチャー、すみや、新星堂などにふれてきたが、ここではそれ以外の主要グループ会社を列挙してみた。これらに連結グループ会社・持分法適用会社を加えれば、CCCが21世紀に入ってさらに増殖し続けていたとわかる。かつて『ブックオフと出版業界』の中で、ブックオフの組織図と分社化について、京セラのアメーバ方式を模倣していると指摘した。だがCCCのすさまじい増殖ぶりはそれをはるかに凌駕している。しかしアイ・エム・ジェイのところで記したように、株式の動きも複雑である。
CCCは店舗、インターネット、カードの三つのプラットフォームでのライフスタイル提案事業を企画展開するとしているが、店舗部門の半分ほどが出版業界との直接の関係で、それ以外は他の事業分野にあると判断すべきだろう。それにもかかわらず、CCCが出版業界の最大の勢力となっていることがまさに最大の問題なのだ]

5.  CCCが出版業界の最大の勢力、もしくは企業価値があることを実証するデータが発表された。それは『週刊ダイヤモンド』(10月18日号)の大特集「流通大激変! 『選ばれる店』の秘密」における「株式時価総額ランキング 知られざる小売り業の急伸」である。ここで上場小売り企業269社の「株式時価総額ランキング」が掲載されている。書店関連を抽出してみる。この順位は総合順位である。ただし8月末の時価であるので、現在とはかなり異なっていることを了承されたい。

順位 社名 時価総額(億円) 5年前との増減比
25 CCC 1,325 166
49 ゲオ 622 73
95 ヴィレッジヴァンガード 204 186
102 丸善 173 ▲23
113 ブックオフ 137
170 ワンダーコーポレーション 54
178 トップカルチャー 51 4.8
185 テイツー 40 22
194 新星堂 34 ▲36
197 文教堂GHD 32 ▲16
211 三洋堂書店 27
226 フォー・ユー 23 ▲11
240 すみや 15 64
251 まんだらけ 12 61

[これは毎年発表される「書店売上高ランキング」と異なる、株式市場からみた将来性+収益力に対する評価である。通販市場でアマゾンが群を抜いていたように、CCCの独り勝ちといっていい。丸善、文教堂、三洋堂の3社の合計時価総額は232億円だから、CCCは3社の6倍近くの株式評価が与えられたことになる。おそらくカード事業への高い評価に支えられているのだろう。総じて株式市場が新刊書店に対して、かなり冷淡であることをランキングは露骨に示している。丸善はその後50円台まで売りこまれたことから、時価総額がこの半額近くになったのではないだろうか]

6.  株式市場から高い評価を受けているCCC本体の株主構成も見ておくべきだろう。上位6位までを示す。

・増田宗昭 24.0%
・マスダアンドパートナーズ 17.2%
・日本マスター信託口 7.9%
・日本トラスティ信託口 7.5%
・日販 2.3%
・角川GHD 1.7%

[増田とその個人投資会社の保有株式は40%を超え、「株式時価総額」からすれば、CCCだけで500億円以上の資産を有していることになる。角川GHDと比較すると、筆頭株主の角川歴彦の所有株式が7.4%であるから、両者を比べると、CCCは圧倒的に個人会社の色彩が強い。しかもマスダアンドパートナーズは角川GHDの第3位株主として、5.9%を所有している。またブックオフに対しても、TSUTAYA名義で5 .9%を持つ第4位株主である。CCCの第3位株主の日本マスター信託口は角川GHDやブックオフの株主でもあり、それぞれ4.5%、2.2%を所有している。これはファンドだと思われるが、詳細はわからない。日販と角川GHDが第5、6位の株主である事は、かつて増田が角川GHDの役員となっていたように、角川歴彦がCCCの役員に名を連ね、CCCとの相互の深いつながりを示している]

7.  次に日販の08年株主報告書から、まず上位株主5位までを示す。

・講談社 5.80%
・小学館 5.74%
・日販従業員持株会 4.03%
・光文社 2.70%
・日販 2.20%

さらに日販の書店を中心とする重要な子会社、及び関連会社を挙げてみる。

・リブロ
・積文館書店
・よむよむ
・すばる(すばる書店)
・多田屋
・精文館書店
・MELTS(よくわからないが、CCC系の書店ではないだろうか)

[株主構成からすれば、第10位までに集英社も入っていると思われるので、日販は音羽グループと一ツ橋グループが大株主ということになる。トーハンもほぼ同様である。しかしトーハンが講談社の野間佐和子や小学館の相賀昌宏を監査役にしていることに比べ、日販は新潮社の佐藤隆信を迎えているだけで、大株主出版社に対して、距離感があるように思われる。実際にコミュニケーション不足だと大株主出版社から聞いたこともある。その理由は明らかだ。子会社とせざるを得なかった書店はリブロを除き、すべてがTSUTAYAのFCとなり、CCCとの関係が大株主出版社よりも密接になってしまったからだ。その結果が日販における増田の社外取締役就任であり、今年の「株主報告書」でも「増田宗昭氏は、社外取締役としての在任年数は3年となります。同氏につきましては、経営者としての豊富な経験から、経営管理、新規事業等についての意見交換、助言を行っていただいており、引き続き社外取締役としての選任をお願いするものであります」という異例の文言が入っている。日販とCCCの抜き差しならぬ関係を浮かび上がらせ、その結果が日販51%、CCC49%の株式比率からなるMPDの成立へと必然的に向かったのであろう。

しかし両社がそこに至る過程は謎に充ちている。1980年代半ばにCCCの増田が脱サラしてビデオレンタル店を開業し、後に日販の社長となる鶴田と知り合い、日販はトーハンを追い抜くためにビデオレンタルのノウハウを吸収しようとして、増田と組んだとされる。そしてCCCはCD・ビデオレンタルのTSUTAYAと、雑誌と書籍のTBN(ツタヤブックネットワーク)のフランチャイズシステムを日販に持ちこみ、その物流と金融機能にパラサイトした。この関係の構図がよくわからない。日販の07年の株式報告書では増田の項目のところで、TSUTAYAに関し「当社は同社に販売手数料を支払っております」との記載があり、私がそれを『出版業界の危機と社会構造』で指摘した。すると今年はそれが消えていた。

また一方で増田はブックオフの坂本と知り合い、坂本にフランチャイズシステムを詳細に伝授し、これは後に明らかになったことだが、ブックオフをCCCのフランチャイズメニューに組みこみ、ブックオフとは別のかたちで、ブックオフの出店を手がけ、それは日販も承知していたと思われる。
したがって90年代に日販、CCC、ブックオフは実質的にトリオを形成した。3社をつなぐキーワードは株式上場とフランチャイズではなかっただろうか。そしてCCCとブックオフは上場に至った。日販は上場に至らなかったものの、鶴田は社長、会長の地位を獲得するに及んだ。しかし今年になってブックオフの坂本はほぼ全株式を売却し、謎のように退場し、鶴田も日販の会長の座から離れた。鶴田の落ち着く先はどこなのかわからないが、トリオの二人は消え、増田だけが残ったことになる。
それにしても見事な戦略だったと思わざるを得ない。右手に複合店というビジネスモデルで新刊書店、左手に新古本屋というリサイクルビジネスで古書業界を制覇してしまったからだ。そして私たちは焼野原のような出版業界の只中に佇んでいる。

さらに推理を進めてみる。最初からCCCは日販を上場させるつもりがなかった。なぜならば、上場は株主の大手出版社を利するばかりで、何のメリットもないからだ。その代わりにMPDの成立に持ちこんだ。このMPDが目論んでいるのは、エンターテインメント事業に特化した取次ではないだろうか。すなわち、雑誌、コミック、新刊売上良好書、DVD、CDに主として特化した取次である。おそらく取次の株主ではなく、エンターテインメント事業に向かっている角川GHDもCCCの盟友として並んでいるのだろう。そしてMPDを上場化し、日販とその傘下にある書店群を子会社とするという計画もありうることではないだろうか。その上で第三者割当増資などの手段でCCCがMPDの筆頭株主に躍り出れば、CCCは出版業界を完全に征服したことになるだろう]

8.  この際だから、トーハンの大株主にもふれてみる。出典は08年の株主報告書からで、こちらは上位10社までの表が掲載されていることもあり、それをそのまま転載する。出資比率は明記されていないが、講談社、小学館は日販とほぼ同様である。

株主名 持株数
講談社 3,715 千株
小学館 3,609 千株
トーハン従業員持株会 3,141 千株
旺文社 1,905 千株
主婦の友社 1,866 千株
文芸春秋 1,788 千株
三菱東京UFJ銀行 1,679 千株
新潮社 1,662 千株
学習研究社 1,482 千株
集英社 1,359 千株

[日販のことで長くなってしまったので、トーハンについては若干のコメントを付すだけにしたい。あらためてトーハンの上位株主を見ると、日販も含めて二大取次が音羽グループや一ツ橋グループを背景として成立していることがわかる。実際に戦後の出版業界も音羽グループや一ツ橋グループの成長とともに歩んだのである。それから旺文社と学習研究社の存在は、戦後が学習参考書の時代であったことを如実に示している。しかし本クロニクルで分析してきたように、儲かる雑誌、成長するコミック、受験のための学参の時代は終わり、CCCや角川GHDに見られるように、エンターテイメント事業がコアにすえられようとしている。トーハンのこの出版社の大株主リストは近代出版流通システムを象徴し、それにCCCやMPDがエンターテインメント事業のための新たな流通システムを対置させようとしているのだろう。
だがトーハンにも日販の増田と同様に、社外から副会長としてセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文が招聘されている。二大取次における彼らの存在は、取次が再編成へと向かっていることを間違いなく告げている]

9.  コミックレンタル卸しの春うららかな書房によれば、コミックレンタル市場は急成長し、現在1000店、市場規模で約70億円に達しているという。いずれは300億円市場と予測。
[ゲオやTSUTAYAチェーンの他に、日販傘下のすばる書店や積文館書店などもコミックレンタルを導入しつつある。新刊書店におけるコミックレンタルも、公然たる取次の認可を得たことになろう。エンターテインメント事業というコンセプトでくくれば、コミックレンタルはさらに広がり、またしても横並び現象が生じ、その結果コミック売上の低下につながっていくだろう]

10.  アルメディアの書店調査によれば、08年9月の全国書店数は1万6110店で、平均坪数は95坪。
[05年には1万7839店あったわけだから、3年間で1729店が減少したのである。出店を差し引いての数だとすると、2000以上の書店が消えていったことになる。つまり坪数が増加していく中での閉店が意味するのは、毎日の通常の返品とは別に、膨大な閉店に伴う返品が生じていることであり、いくら返品率の改善を唱えても、まったく改善されないことがこの事実からもわかるだろう]

11.  ブックファースト新宿店が11月6日にオープン。売場面積1090坪、年商30億円を想定。
[誰も公然とは言わないが、出版業界の大半がゼロサムゲーム的新規出店にはうんざりしているはずだ。新宿には紀伊国屋2店、ジュンク堂の大型店3店があり、すでにオーバーフロア状態であることは明らかだ。もちろん出店には様々な思惑と事情が潜んでいることも承知しているが、読者や売上が増えるはずもなく、出版社と取次はまたしても出店に伴う膨大な出品と返品という消耗戦を強いられることになる]

12.  その一方で、書店の閉店や倒産が続いている。岐阜の自由書房が閉店、吉祥寺の弘栄堂書店も撤退するようだ。また老舗で、銀座店もある新東京ブックサービスも倒産を伝えられている。
[いずれも人文書をよく売ってくれた書店である。とりわけ吉祥寺の弘栄堂は書店のオリジナルなフェアの発祥地とでも称すべき書店で、1970年代半ばに鈴木邦夫が仕掛けたシュルレアリスムフェアがその始まりとされている。書店史の一コマとして、ぜひ記憶しておいてほしい。これらの3店が相次いで閉店、撤退、倒産するのは偶然ではない。エンターテインメント事業の流れの中に呑みこまれてしまったとも言えるだろう]

13.  ブックオフによるワイシーシー全株式の買収金額は13億3400万円。
[5の「株式時価総額ランキング」で見たように、ブックオフの時価総額が137億円であるから、大盤振舞に近い高価な買い物ということになろう]

14.  文教堂GHD、売上高512億円で、前年比4.5%減。5年連続売上減少、2年続きの赤字決算の当期純損失3億9900万円のために、上場以来初めての無配。
[来期は黒字回復をめざすとしているが、深刻な経済不況の中で、それは難しいだろう。とすれば、新たな資本注入、他との業務提携、子会社化などを模索するしかない。文教堂はトーハン6.3%、角川GHDが4.7%の株を所有し、それぞれ第3位、5位の大株主である。トーハンはゲオとの関係、角川はCCCとの絡みから、双方ともひどく悩ましい立場にあると思われる]

15.  本クロニクル3で雄峰堂書店の自主廃業を伝えたが、負債3億6000万円で破産手続きを開始。
[やはり自己破産に至るしかなかったようだ。景気の急速な落ちこみによって、年内には同様の書店がまだいくつも控えているのではないだろうか]

16.  大阪の仏教書出版社、東方出版が民事再生を申請。負債3億8547万円。
[日本の出版は仏教書から始まるとされ、仏書出版は寺とのつながりによって安定したビジネスだと思われていたが、もはやそのような時代ではないことを浮かび上がらせた]

17.  中経出版が新人物往来社を吸収。ビジネス書系の中経出版が現在の人気分野である歴史書や時代小説を取りこむ意図で、新人物往来社の出版部門を継承することになった。
[このM&Aは知らなかった事実を教えてくれた。それは荒地出版社が新人物往来社の傘下にあったことである。この出版社は早川書房から独立した伊藤尚志によって1952年に設立され、鮎川信夫や田村隆一たちの『荒地詩集』などを刊行している。それからこれも新会社の「広済堂あかつき」の発足で明らかになったが、広済堂と暁教育図書が合併して発足したという。暁教育図書は80年代に「日本発見」と題する30冊ほどのムックを出版し、当時のムックブームもあり、よく売れたシリーズだった。荒地出版社も暁教育図書もしばらくぶりで目にする出版社で、あらためて旧来の出版社も含めて、再編が進行していることを知った。これからは出版社、取次、書店を問わず、再編がキ−ワードとなるであろう]

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出版業界の危機と社会構造
出版業界の危機と社会構造
出版社と書店はいかにして消えてゆくか
出版社と書店は
いかにして消えていくか
ブックオフと出版業界
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