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出版状況クロニクル 8 (2008年11月26日〜12月25日)

小田光雄


9月15日のリーマンショック以後、世界の自動車市場は未曾有の危機に見舞われ、とりわけアメリカの新車販売はフリーフォール(垂直落下)状態に陥り、10月は35%減、11月は37%減となっている。
日本も同様で、09年には国内新車販売は500万台を割り、ピーク時の90年の777万台に比べて4割減になると予測されている。
出版業界における雑誌は、ちょうど戦後日本経済における自動車産業のような役割を果たしていたが、今年に入って大手出版社の雑誌の廃刊が続き、こちらも自動車と同様のフリーフォール状態に追いこまれている。今月は主として雑誌をレポートしてみる。

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1.  日本ABC協会による08年上半期雑誌販売部数が発表された。週刊誌8.46%減、月刊誌3.57%減で、週刊誌の落ちこみが顕著である。以下主な週刊誌の販売部数を示す。

サンデー毎日 78,353
週刊朝日 179,338
週刊アサヒ芸能 125,082
週刊現代 264,389
週刊新潮 444,114
週刊大衆 210,622
週刊プレイボーイ 221,209
週刊文春 502,709
週刊ポスト 306,010
SPA! 113,397
ニューズウィーク 71,883
週刊女性 195,201
女性自身 280,095
女性セブン 295,485
週刊ダイヤモンド 114,579
週刊東洋経済 89,842

[ 総合週刊誌8誌はすべてが前年比減。出版科学研究所のデータによれば、97年の週刊誌推定販売部数は15億1572万冊、推定販売金額は3945億円、07年は前者が8億8930万冊、後者が2698億円で、この10年における週刊誌の失速がよくわかる。販売金額は定価値上げもあって、3割ほどの落ちこみだが、販売部数はピーク時の90年代前半に比べるとほぼ半減している。
本クロニクル7で、『週刊現代』が年間20億円の赤字であることを伝えたが、部数からすれば、総合週刊誌は『週刊新潮』と『週刊文春』が何とか黒字を保ち、他は苦しいと推測される。
しかしこのような週刊誌不況の中にあっても、『週刊ダイヤモンド』や『週刊東洋経済』は部数を伸ばしている。それは経済誌という特色もさることながら、何よりも記事や企画の充実にあると思われ、今月の『週刊ダイヤモンド』(12月6日号)の「新聞・テレビ複合不況」、『週刊東洋経済』(12月20日号)の「自動車全滅!」は出色の好特集だった。これらの特集は劣化した他の分野に比べて、まだ経済ジャーナリズムが健在であることを示し、それこそコンテンツの強度こそが雑誌の生命と売れ行きを支えていることを教えてくれる。だが残念なことにこの二誌にしても、出版不況を特集することはできないだろう ]

2.  『読売ウイークリー』(12月14日号)が表紙に「これが最終号!」と銘打ち、『月刊読売』『週刊読売』を経て65年の歴史に終わりを告げ、廃刊になった。

[ 最終号ならではの企画として、「年々縮小する市場、週刊誌は消えゆく運命か」、及び「読売ウイークリーから愛を込めて『がんばれ総合週刊誌』!」とサブタイトルを付した「週刊誌という『文化』の未来」と題する特集を組んでいる。他の週刊誌の編集長たちの声も寄せられ、興味深いが、ほとんど読まれていないと思うので紹介してみる。
まずはここに記された出版指標年報による全週刊誌推定発行部数の推移を示しておく。

1965 7億部
1975 11.7億部
1985 16.2億部
1995 19.4億部
2007 12.3億部

そして97年の発行部数は『週刊ポスト』85万部、『週刊現代』70万部、『週刊文春』65万部、『週刊新潮』50万部という数字も挙がっている。1の表と照らし合わせれば、ここ10年で『週刊ポスト』や『週刊現代』は半減どころか、3分の1の部数になっているとわかる。おそらく『週刊ポスト』も赤字に陥っているのではないだろうか。
また『週刊新潮』が創刊された56年から始まる週刊誌全盛時代にかけては、『週刊新潮』144万部、『週刊朝日』150万部、『サンデー毎日』156万部を記録した号もあり、週刊誌の黄金時代を伝えている。それはこの時代に週刊誌が商店街の書店の集客の柱だったとこと示していよう。
それにつけても思い出されるのは、まだ町の商店街が元気であった時代には書店だけでなく、多くの喫茶店、食堂、飲み屋、床屋、美容院などがあり、それらは町の社交場を兼ね、またかならず週刊誌が置いてあった。つまり自ら買うことに加え、週刊誌を読むインフラが町の中に整えられていたのである。しかし21世紀に入り、それらを含む商店街は壊滅状態になってしまった。もちろん週刊誌不況はネット、フリーペーパーとの競合、活字離れも原因とされるが、このような週刊誌を読むインフラたる商店街の消滅も大きく作用しているはずだ。『週刊朝日』編集長が「読売ウイークリー休刊と聞いて、明日は我が身と背筋の寒くなる思いがした。これで新聞社系の総合週刊誌はうちとアエラとサンデー毎日だけになってしまった」とのコメントを寄せている。巻末ページには「そして消えゆくものが、またひとつ……」のキャプション入りで、『読売ウイークリー』編集部の写真が掲載され、編集部一同を数えると編集長以下アルバイトを含んで50人を超える。まさに中堅出版社が消えていったことになる ]

3.  月刊ビジネス誌『頭で儲ける時代』やライフスタイル誌『男の隠れ家』を刊行していたあいであ・らいふが自己破産。関連会社と合わせ、負債は25億円。

[ 今年に入ってからの売れ行きの悪化と広告収入の落ちこみが二大要因であろう。しかし雑誌の広告収入の落ちこみはこれからさらに本格化し、雑誌全体に大きな影響をもたらすことは確実だ。朝日新聞の広告収入は2000年の1900億円が08年には1000億円を割ったとされる。新聞とテレビの広告費は3兆円で、トヨタをトップにして、ホンダ、三菱自動車、日産自動車の4社が10位に入り、その合計は一割の3000億円を占めている。だが自動車市場の危機を迎え、広告費の削減は必至だろう。すでにトヨタは3割カットを決めている。雑誌広告収入は07年4585億円とされているが、新聞、テレビと同様に大幅な落ちこみを避けられないだろう ]

4.  広告依存度が高くない専門誌にも雑誌不況は押し寄せている。1898年創刊の『英語青年』が来年の3月号で休刊。『英語青年』は「英語英米文学界の官報」と評されていたにもかかわらず、休刊せざるを得なくなったのは実売部数が3000部を割りこみ、発行所の研究社が支えられなくなったことを意味している。『英語青年』だけでなく、他の専門誌も危機に見舞われているようだ。それが「編集後記」に示されているのをふたつほど目にしたので、ここに記しておく。

[ 『映画芸術』秋号で発行人の荒井晴彦が、金がなくて危機にあり、寺脇研に相談したと述べ、次のように書いている。
「寺脇に文化庁の退職金あるだろう、映芸買ってくれないか、俺はもう自分が生活していけるかだけで手一杯なんだよと頼んだのだが、買うのは無理だけど援助はするよと言ってもらっていた。寺脇は援助してくれた。しかし、その場は凌げてもこのままだとまたピンチになるのは目に見えている」。次号は恒例の「ベストテン&ワーストテン」特集で、09年1月末発売と予告されているが、大丈夫だろうか。買いますので頑張って下さい。
『本の雑誌』の09年1月号でも、名目上の編集人椎名誠がやはり同様に書いている。「二〇〇八年になって『本の雑誌』の経営が急に悪化し、このままでは『休刊』に追い込まれるかもしれない、と現経営者に聞き、これはいかん、と思い、ぼくは何年も前から実質的な編集現場から離れていたが、なんとか立ち直る方向でみんなと頑張ることにした」。こちらの次号は、「編集後記」で発行人の浜本茂が「絶対に出ます」と確約しているので、大丈夫だろう。
これらの二誌からわかるように、人文社会系の専門誌はほとんど全誌が存亡の危機にさらされていると考えられる。おそらく来年はかつてない廃刊、休刊に立ち会うことになろう ]

5.  雑誌の衰退や凋落は2で述べたように、商店街の書店から始まる様々な個人商店をベースとする雑誌を読むインフラの解体とリンクしている。80年代からの郊外消費社会の形成を背景にして、商店街の書店は郊外型書店、それに続く郊外型複合大書店によって壊滅状態になり、さらに80年代の郊外型書店は郊外ショッピングセンターによって駆逐された。その移動は雑誌や書籍を読むインフラ、出版業界が一世紀かけて構築してきた雑誌や書籍をめぐる共同体をも突き崩してしまった。

[ 日本ショッピングセンター協会によれば、郊外ショッピングセンターは08年に72の出店があり、2876を数えている。これらの中にはすべて書店が入っているはずで、08年の全国書店数は1万6110店だから、2割近くの書店が郊外ショッピングセンターの中にあることになる。
総合週刊誌の編集者は、これらの郊外ョッピングセンター内の書店をぜひ一度見るべきだと思う。ショッピングセンター自体が20代から30代の客層を中心とするエンターテイメント事業のコンセプトで構成されていることからして、総合週刊誌が売れる雰囲気はまったくない。だが逆に、もはや本とはいえない血液型の本がベストセラーになることだけはわかるだろう。
しかしその郊外ショッピングセンターも飽和状態になり、この10年全国の郊外に巨大なショッピングセンターを建て続けたイオンも売上高は5兆円を超えたにもかかわらず、株価は落ちこみ、時価総額は6787億円という10年前の2分の1まで下落している。様々なファンドと複雑な手法を駆使した郊外ショッピングセンターの開発によって成長してきたイオンも、金融危機を受けて、重大な岐路に差しかかっている。実際にテナントの埋まらないショッピングセンターも出てきている。イオンが発表したショッピングセンターを含む60店の撤退は、地方都市とテナントに大きな影響を与えるだろう ]

6.  しかし逆に、郊外複合大型店や郊外ショッピングセンターの若い女性客層を対象とする雑誌を次々と刊行し、売上高を急速に回復しているのが、宝島社で、『日経MJ』(11月26日)が「蘇る宝島社3つの航海術」という特集を組んでいる。「3つの航海術」とはタイムリーなブランドの付録、宣伝広告費の倍増とPOP戦略による巧みな販売促進、一番誌戦略に基づく値下げ戦略を指している。それらによって、女性誌『インフレッド』『スウィート』『スプリング』、男性誌『スマート』の主力4誌の08年上半期販売部数は07年下半期25%増の86万部に及び、広告収入も同様にアップしているようだ。

[ 『別冊宝島』シリーズでムックの一分野を確立させた宝島社の新たな展開であるが、あきっぽい若い女性層が中心であるゆえに、その持続性が気になるところだ ]

7.  トーハンと日販の中間決算が発表された。トーハンは売上高2737億円で前年比7.5%減、経常利益16億円で3.0%減、中間純損失1700万円と赤字。返品率39.9%に上昇。
 日販は売上高3086億円で前年比0.7%減、経常利益は66億円で前年比6.8%増、中間純利益は3億円で前年比63.9%減。返品率37.3%。

[ 雑誌の返品率だが、トーハンは36.9%、日販は38.6%と高くなる一方である。雑誌の返品率は80年代から90年代半ばにかけて、ほぼ20%前半の数字であったが、その後上昇して20%後半になり、03年から30%台に入り、上がり続けている。つまり雑誌はかつてに比べて倍近くの返品率になっている。
これも本クロニクル7で指摘したことだが、ムック雑誌の高返品率のあおりを受けていると思われる。これ以上の返品率の上昇を避けるために、取次は雑誌仕入れの総量規制に向かうのではないだろうか。そうなれば、雑誌不況にさらに拍車がかかる可能性もある ]

8.  大阪屋が出版社など30社を対象とする5億円の第三者割当増資を決議。

[ 先月の文教堂の増資に続いて、大阪屋も増資という事態になった。民事再生中の洋販ブックサービスや明林堂書店の問題もあり、資金繰りがタイトになってきたことから取られた処置であろう。増資に応じた30数社の社名は公表されていないが、明らかになれば、取次再編の方向性が浮かび上がるかもしれない ]

9.  協和出版販売がトーハンと業務提携。

[ 取次における大阪屋と栗田、日販と日教販の業務提携に続くものである。これらの動きは来年に向けての取次の再編の序奏と意味づけられるだろう ]

10.  日教販は売上高378億円で前年比0.9%増の増収だったが、所有する不動産の売却損の計上などにより、2億3000万円の赤字となり、2年連続の赤字決算。

[ 来年は日販と日教販の業務提携の動きが本格化するだろう。だが本クロニクルで記したように、業態的に水と油の関係のように思われるので、その行方を注視したい ]

11.  MPDの中間決算は売上高1002億円で増収増益。

[ これも本クロニクル2で記したように、MPDの07年度の売上高は2115億円である。前期はTSUTAYA店舗25店の増加が寄与した数字であるので、後期もかなり出店しないと前年をクリアできないのではないだろうか ]

12.  商店街の書店と読者のインフラ関係、取次の問題と続けてきたので、あらためて大阪屋、中央社、太洋社といった中取次、あるいはその他の小取次が果たしてきた、小書店との雑誌流通にもふれてみよう。このことは誰も論じないが、戦後の出版文化に対して、大いなる貢献をもたらしたと信ずるからである。

[ ここのところ、ずっと戦後のカストリ雑誌とコミック、貸本、『奇譚クラブ』や『裏窓』などのアブノーマル雑誌、同性愛雑誌、SM雑誌やポルノ雑誌を含む所謂「エロ雑誌業界」の流通を調べていて、それらは立ち上がりに中小取次と小書店を対象として流通、販売されていたことを知った。そのようなベースがあったために、80年代における白夜書房の躍進が可能だったのだろう。
書籍に関しては金太郎飴書店と揶揄されてきたが、どの町にも立地の悪いところに小書店があり、大書店では並べていないそのような雑誌群が売られていた。世界に冠たる日本のコミックもエロ文化も、そのような土壌から生まれてきたのである。その意味で雑誌の棲み分けがあり、それを中小取次と小書店が担ったといえる。
しかしそれらの小書店も姿を消してしまった。中小取次の苦境もそのことと無縁ではないように思える。そういえば、『S&Mスナイパー』(ワイレア出版)も休刊したようだ ]

13.  紀伊国屋書店と有隣堂の今年度の決算が発表された。紀伊国屋書店は売上高1198億円で前年比2.0%増、当期純利益は3億円で、2年続きの赤字から増収増益になった。有隣堂も売上高546億円で前年比1.8%増、純利益1億3600万円で増収増益。

[ いずれも出版不況の中の増収増益決算なので、水を差すようで恐縮ではあるが、内実を見てみると、紀伊国屋は恵比寿の本社ビル売却による特益利益31億円を含んだものであり、また有隣堂も新規店4店出したにもかかわらず、書店事業は横ばいで、オフィス機器の売上増加と株式売却益によるものである。したがって、両社とも増収増益であっても、雑誌、書籍の売上は低迷していると見るべきだろう ]

14.  丸善がTRCと09年夏に共同持ち株会社を設立し、経営統合すると発表。丸善は同年7月に東京一部上場を廃止し、8月3日に統合会社が上場する予定。

[ 売上と株価の低迷、09年度の赤字決定から、親会社の大日本印刷の意向を受けた結果であろう。新会社への大日本印刷の出資は50%。今回の報道を通じて、TRCも大日本印刷の子会社となっていたことを知った。提携までは承知していたが、すでに株式の売却までなされていたようだ。TRCの石井昭たちはその売却金を寄付し、50億円の基金で図書館振興財団を発足させた。来年から活動を始め、年間の助成予算は8000万円という。ぜひとも有効に使われるように願わずにはいられない。
ぴあも凸版印刷の第三者割当増資を行なうようで、出版業界の再編に印刷会社が大きな役割を果たすことになるのだろうか ]

15.  学研が全社員の1割に当たる100人の早期退職者を募集。

[ 学研も教育雑誌の売上と広告収入の落ちこみで、前期に56億円の赤字を計上し、この1年あまりで、3回目の早期退職募集ということになる。本クロニクル2で記したように、建設中の新本社ビルの売却といい、経営の深刻さは増すばかりだ ]

16.  弥生書房が廃業するようだ。

[ 弥生書房といえば、吉野せいの『洟をたらした神』も印象的だが、「世界の詩」シリーズが思い出される。考えてみると、詩の時代というものもあったのだ。角川春樹が角川書店に入社して、ビジュアルな『カラー版世界の詩集』を企画し、ベストセラーならしめたが、弥生書房のシリーズがヒントになったのではないだろうか。弥生書房の退場は出版における詩の時代の終焉を告げている。弥生書房については創業者の津曲篤子による『夢よ消えないで』という「女社長出版奮闘記」が社史として刊行されている ]

17.  トーハンが(株)金曜日の古川琢也著『セブン-イレブンの正体』の委託配本を拒否。セブン-イレブンの実質的創業者の鈴木敏文がトーハンの取締役副会長を務めているので、「その不利益になるような商品を積極的に販売することはできない」というのがトーハンの説明。

[ 日販のタブーがCCC=TSUTAYAであると同様に、トーハンのタブーがセブン-イレブンであることが図らずも証明されたということになろう ]

つづきはこちら。

小田光雄の著書

出版業界の危機と社会構造
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出版社と書店はいかにして消えてゆくか
出版社と書店は
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ブックオフと出版業界
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